MLB

家族の健康と責任感のはざまで――コロナ渦中のシーズンに臨むトラウトの思い

斎藤庸裕

2020.08.08

待望の第一子誕生が迫る中、トラウトはシーズンへの不安を漏らしていた。(C)Getty Images

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、メジャーリーグは7月23日に開幕した。MLB機構が作成したウイルス感染予防のマニュアルに従い、7月上旬にキャンプを再開。選手たちは厳戒態勢の中で3週間、準備を進めてきた。

 一方で、昨季のワールドシリーズ王者ナショナルズのライアン・ジマーマン、レッドソックスからドジャースに移籍した左腕デビッド・プライス、2012年にMVPを獲得したバスター・ポージー(ジャイアンツ)らシーズンを辞退する選手も続出した。2日に1度の検査を行い、7月31日の時点で全体の陽性率は0.2%と低いが、マーリンズやカーディナルスで選手やスタッフ間の感染が拡大。複数の試合が延期されるなど、依然として予断は許さない状況だ。

 エンジェルスでは、夫人の出産を控えていた主砲マイク・トラウトの動向が特に注目されていた。キャンプ再開の初日、トラウトは心境についてこう語った。
 
「正直、いい気分とは言えない。子供が生まれてくるし、多くのことが頭をよぎる。妻のこと、家族のこと。本当にこの数週間というのは注意しないといけない。非常に難しい時間だし、みんなが困難な状況にいる。全員が責任を持って、社会的距離をとって、マスクをすることで安全を心がけないといけない」

 最初の数日間、全体練習は10人ずつの少人数で行われた。朝9時と11時に練習時間を分け、できる限り密集を避けた。ウオーミングアップはマスクを着用しながら行った。終了後に多くの選手がマスクを外す中、トラウトは外さない。ベースランニングの時ですら、マスク着用で走った。それでも、不安は消えなかった。「どれだけ安全かというのは、そのうち分かる。もし何か起きたら、家族のためにも、考え直さないといけない。まだ多くの疑問がある」。プレー続行へは安全の確認が最優先だった。

 球団も感染リスクを最小限にする工夫をこらした。ビリー・エプラーGMの発案で、通常はファンが使用するスイートルームを各選手に提供。昼食や休憩時間にゲームなどでリラックスするための場として用意した。また、クラブハウスは着替え専用で、交流は禁止。選手のロッカーは隣り合わせにせず、2つずつ空けて、距離を十分に保った。