プロ野球

プレッシャーと戦うことを忘れた男がノーヒッターを達成するまで――大野雄大、復活の軌跡

氏原英明

2019.09.16

ノーヒッター達成に破顔する大野。ヒーローインタビューでは、「一生に一回達成できるかどうかのモノですし、喜びを表現しちゃいました」と語った。写真:日刊スポーツ/朝日新聞社

 マウンド上で子供のように小躍りして喜ぶサウスポーを見て、一つの山を越えた感傷が彼にはあったのだろうなと思った。

 中日の大野雄大が14日の阪神戦でプロ野球史上81人目、92回目のノーヒット・ノーランを達成した。同月6日に達成した千賀滉大(ソフトバンク)に続く大記録である。

 大野雄大といえば、ほんの4年ほど前まではドラゴンズのエースを務め、侍ジャパンに選ばれたこともある球界屈指の左腕投手として活躍していた。しかし、ここ数年は思うような結果が出ずに苦しみ、昨季に至っては0勝、防御率8点台と信じられない成績に終わった。

 かつてバッテリーを組んだ評論家の谷繁元信氏も、「ツーシームを覚えて楽を知ってしまった。本来の持ち味が何かを考える必要がある」と語りつつ、元チームメイトでもある教え子が輝きを失う姿を心配していたものだ。

 そんな大野がなぜ、復活を遂げることができたのか。

 本人がやや苦笑まじりに「10%もない要素ですけど」と理由に挙げた一つが禁酒だ。
 大野はかつてこんな話をしている。

「2月1日のキャンプインからお酒を飲むのもやめました。飲み過ぎてしまうところがあってそうしたんですけど、実際にやってみて、身体がかなり違います。筋肉の張り具合が変わりました。僕は登板の翌日、ボールを握りたくもないくらい、投げたくないって思うタイプだったんです。でも、今は登板翌日でもキャッチボールをするようになりました。身体がだいぶ変わりました」

 大野の言葉で伝わってくるのは、「お酒をやめた」ことをきっかけに、身体について深く考えるようになったということだろう。「10%もない要素」と付け加えるのも、あくまで付随的な要素という意味だ。

 もう一つの変化は、2段モーションの解禁だ。

 2017年、菊池雄星(当時・西武)の2段モーションがシーズン中に「反則投球」と指摘を受け、球界を騒がせたことがあった。

 昨年から2段モーションは認められるようになったが、菊池の一件の余波は球界内に少なからぬ影響を及ぼしている。菊池のように反則を取られたケースもいれば、「自分も取られるかもしれない」と疑心暗鬼になってパフォーマンスを低下させた投手もいるのだ。