専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
MLB

「最悪のトレード」がもたらしたカブスの悲劇。かたやカーディナルスは通算938盗塁の韋駄天、ブロック獲得で栄華を極める

宇根夏樹

2020.09.11

ブロックはカーディナルスの球団史上でも有数のレジェンドだが、実はメジャーデビューはカブスだった。(C)Getty Images

ブロックはカーディナルスの球団史上でも有数のレジェンドだが、実はメジャーデビューはカブスだった。(C)Getty Images

 8月31日、MLBはトレード・デッドラインを迎え、今季も多くの選手がトレード移籍した。多くの場合、トレードはどちらもチームを強くするために行う。ただ、その結果はさまざまだ。双方が思惑どおりの“ウィン・ウィン”であることもあれば、揃って期待を裏切られることもある。

 中でも人々の記憶に残るのは、一方では獲得した選手が大活躍し、もう一方では大きく期待を裏切った場合だろう。ましてや、その結果がトレード当初の評価とまったく逆転すればなおさらだ。6日に逝去した、MLB史上2位の通算938盗塁を記録した殿堂入り外野手ルー・ブロックをカーディナルスが獲得したトレードは、そんな一方は大成功、もう一方は大失敗したトレードの代表的な例として語り継がれている。

 1964年6月15日、カブスはブロックら3人をカーディナルスへ放出し、引き換えにアーニー・ブロリオら3人を獲得した。この時ブロックはまだ24歳で、前年にメジャーへ定着したばかりの若手外野手。一方、28歳のブログリオは、60年に最多勝を獲得した実績ある先発投手で、63~64年に2年連続でカーディナルスの開幕投手を務めた。『シカゴ・デイリーニューズ』のコラムニストは、この格差トレードを大いに喜び「ありがとう、ありがとう、ああ、愛しのセントルイス・カーディナルス。いい取り引きができた。またいつでも声をかけてくれ」と書いたほどだ。これはやや極端な意見としても、カブスに有利なトレードと見る向きは多かったようだ。

 ところが、期待されたブロリオはこの年、カブスで11試合に登板して4勝7敗、防御率4.04と冴えなかった。それに対してブロックは打率.348と打ちまくり、移籍時点で28勝31敗だったカーディナルスが、その後65勝38敗の快進撃で18年ぶりのワールドシリーズ優勝を果たすのにも一役買った。
 
 だが、カブスの悲劇はここからだった。ブロリオは結局、カブスに2シーズン半在籍して7勝19敗、防御率5.40と、カーディナルス時代とは別人のような成績に終わった。本人の回想によると、トレード前から腕の状態が思わしくなかったという。結局彼は66年限りでカブスを去り、67年にレッズのマイナーで投げたのを最後にユニフォームを脱いだ。

 対照的に、ブロックは79年オフに引退するまで16シーズンにわたってカーディナルスで輝かしい実績を積み上げた。盗塁王を8度獲得し、オールスターには6度選出。通算3023安打、938盗塁を積み上げ、85年には資格1年目で殿堂に迎えられた。MLBの公式歴史家だったジェローム・ホルツマンは、ブロックの放出とブロリオの獲得を「カブスの球史における最悪のトレードの一つ」と位置付けている。

 カーディナルスは67年にも再びワールドシリーズで優勝し、68年もリーグを制した。このトレードだけが原因ではないが、カブスは46年から83年まで38年間もポストシーズンから遠ざかった。2016年には108年ぶりのワールドチャンピオンを果たして話題となったが、ブロックがもしカブスへ残っていたら。もっと早く世界一を達成できていたかもしれない。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

【PHOTO】スター選手が勢ぞろい! 2020MLBプレーヤーランキングTOP30
 
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号