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MLB

前田健太の4シームの被打率は先発メジャー1位! なぜ平均147キロの“平凡”なボールが打たれないのか?

THE DIGEST編集部

2020.09.25

一見平凡に過ぎない前田の4シームがなぜ打たれないのか。そのヒントを探っていこう。(C)Getty Images

一見平凡に過ぎない前田の4シームがなぜ打たれないのか。そのヒントを探っていこう。(C)Getty Images

 変化、幻惑――前田健太の今シーズンのピッチングを見ていると、そうした言葉が浮かんでくる。

 ミネソタ・ツインズの前田は現地時間24日、2020シーズン最終戦に登板。6回3失点で白星を挙げて、日米通算150勝を達成した。今季成績は11先発して66.2回を投げ、6勝1敗、防御率2.70、80奪三振。WHIP(1イニングあたりに許した走者の数)はメジャートップの0.75と素晴らしい数字を残し、目前に迫ったポストシーズンではツインズの1番手として活躍が期待されている。

 今季の前田のピッチングを一度でも見たことがあれば誰でも気づくと思うが、現在の武器は「チェンジアップ」だ。広島時代は習得するのに時間がかかりあまり投げておらず、渡米当初も投球割合は平均10%前後しかなかったものの、本人も自信を深める中でその頻度は上昇。昨年は23.5%までアップすると、ツインズに加入した今季は29.5%と投球の3割近くを占めるまでになった。

 このチェンジアップに、日本時代から圧倒的な切れ味を誇ったスライダー(38.5%)が68.1%の割合で構成され、ばったばったと打者を抑える光景はもうお馴染みのものだろう。ただ実は、前田が操るボールで最も打たれていないのが「4シーム」、いわゆるストレートである。被打率はスライダーが.216、チェンジアップが.122、そして4シームが.083と並んでいる。

 この数字は前田という括りでなくとも突出しており、今季4シームを150球以上投じた全222投手中で被打率.083はメジャー2位、先発に限れば堂々のトップに君臨している。ただ、これも前田の投球を見たことがあれば分かるだろうが、彼の球威自体は“並”だ。

 平均球速91.6マイル(約147.4キロ)は222人中182位、回転数も2272回転/分でメジャー平均を下回っている。それでも、被打率は平均球速メジャー1位(98.5マイル/158.5キロ)のジェイコブ・デグロム(.182)、回転数メジャー1位(2775回転)のトレバー・バウアー(.313)らを抑えての先発1位というのは、摩訶不思議という感じがしてくる。
 
 そこで、動画を見てほしい。この映像は24日の登板で前田が投じたスライダーとチェンジアップと、その2つを重ねた投球映像となっている。それぞれの切れ味鋭い変化ももちろん凄いのだが、ポイントは最後のシーンだ。ともに大きな曲がりの変化をしているにもかかわらず、投球を重ね合わせてみると、打者の手元までまったく同じ軌道を通っていることが一目で分かるはずだ。

 いわゆる「ピッチトンネル」。簡単に言えば、打者がボールを認識するとされるホームプレートから7.2m離れた場所(トンネル)に投げる技術であり、このトンネルが限りなく小さく、また同じ軌道で入ってくると、打者はどんな球種か分からなくなってしまう。メジャーでは一流クラスの投手はほぼ全員がこれを習得しており、前田も同様である。

 この映像にあるように、4シームをこの圧倒的な変化球と同じ軌道で偽装することで、前田の“平凡”な4シームは“最強”へと昇華しているのではないだろうか。そういえば先日、2000年代最強投手として君臨し、殿堂入りも果たしたペドロ・マルティネスはこう言っていた。

「ケンタ・マエダは自分のやっていることをよく理解している。打者を圧倒しているわけではない。しかし、打者の裏をかいて抑えている。ただ“投げている”のではなく、しっかり“投球”しているのだ。彼はまさにボールの“フーディーニ”だ。あらゆるコースにボールを消失させるような投球をしている」

 フーディーニとは、「脱出王」の異名で名を馳せた天才マジシャンである。まさに今季の活躍、そして映像を見ていくと、ペドロの言葉がなるほどと思えてくるのではないか。最後は明らかに外れたボール球なのに、打者が本気でスウィングして空振りする様は、まさに前田の“天才マジシャン”ぶりが証明された姿ではないだろうか。

 ツインズは現在ポストシーズン16連敗という、大一番に弱い球団の一つである。そのチームに突如現れた「脱出王」がいつものようにボールを消失させる投球で打者を圧倒し、そしてチームを負の連鎖から“脱出”させるのか。その答えは、前田が登板するであろうポストシーズン初戦、30日に分かるはずである。

構成●THE DIGET編集部

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