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プロ野球

高梨、澤村を超える衝撃――途中トレードで近鉄に移籍したブライアントの驚異の打棒

SLUGGER編集部

2020.09.28

近鉄史上最高の助っ人であるブライアント。とにかくフルスウィングが身上で、本塁打と三振を量産した。写真:産経新聞社

近鉄史上最高の助っ人であるブライアント。とにかくフルスウィングが身上で、本塁打と三振を量産した。写真:産経新聞社

 9月30日のトレード期限が間近に迫っている。思えば今季は印象的な途中トレードが多く、楽天から巨人に移ったゼラス・ウィーラーや高梨雄平はチームに欠かせぬ存在となり、その巨人からロッテへと移った澤村拓一も首位争いに貢献している。だが、このようなシーズン途中移籍で史上最も強大なインパクトを残した選手と言えば、1988年に中日から近鉄へ途中移籍したラルフ・ブライアントをおいて他にいないだろう。

 ブライアントはこの年、ドジャース傘下から中日へ入団。だが、当時は外国人選手の一軍出場選手登録は2人までだった。中日では台湾出身でこの年MVPを獲得する郭源治と、86~87年の2年間で計60本塁打と実績十分のゲーリー・レーシッチで埋まっており、ブライアントは開幕からファーム暮らしを余儀なくされた。

 だが、そんなブライアントに思わぬ幸運が舞い込んできた。85年に40本塁打を放った近鉄の主砲リチャード・デービスが、6月7日に大麻所持で逮捕されてしまったのである。当然、デービスは解雇となり帰国。代役の外国人主砲獲得が急務となったが、獲得期限はすぐそこまで迫っており、近鉄が急遽、白羽の矢を立てたのがブライアントだった。

 6月28日にトレードで移籍したブライアントは翌日、さっそく6番レフトでスタメン出場。2打点を挙げて勝利に貢献し、7月3日には初本塁打。当初は粗さも目立っていたが、名伯楽・中西太打撃コーチの下、毎日のように早出特打に精を出した成果が出てホームランを連発。8月には2度の1試合3ホーマーを含め22試合で13本。結局、74試合で34本を量産した。ちなみにこの年の本塁打王は門田博光(南海)の44本。いかにブライアントの打棒が桁外れだったかよく分かるだろう。ブライアントの快進撃に呼応するようにチームも急上昇。移籍時点で8ゲーム差あった首位・西武との差は、シーズン最終日の10月19日には0.5ゲーム差まで縮まった。
 
 西武はすでに全日程を終了しており、近鉄はこの日のロッテとのダブルヘッダーに連勝すれば優勝という状況だった。近鉄は劇的な逆転勝ちで第1試合に勝利。再び大熱戦となった第2試合、3対3で迎えた8回表にブライアントが勝ち越し本塁打を放ち、優勝への期待は大きく高まった。

 だがその裏、近鉄は高沢秀昭のソロ本塁打で同点に追いつかれてしまう。当時は試合時間が4時間を超えると次のイニングには入らないというルールが存在した。近鉄ナイン何とか追加点をもぎとろうとするも果たせず、延長10回の時点で制限時間は過ぎてしまい、試合は時間切れで引き分けに終わった。近鉄が惜しくも優勝を逃したこの日のドラマは『10.19』と呼ばれ、今も語り継がれている。もし勝っていれば、近鉄は日本シリーズで中日と対戦することとなり、ブライアントも恩返しのチャンスだったのだが……。

 だが、その後もブライアントの快進撃は続いた。89年には49本塁打で初のタイトルを獲得。シーズン終盤の10月12日には、優勝を目前にする首位・西武とのダブルヘッダーで2試合にまたがる4打数連続本塁打を達成した。この活躍で2試合とも勝利した近鉄は、勢いに乗って逆転リーグ優勝を果たし、ブライアントはMVPに選ばれた。西武は85年からリーグ4連覇、90年からは5連覇している。圧倒的な強さを誇った常勝軍団をブライアントのバットが倒しただけに価値も高い。

 90年には史上最速の246試合で通算100本塁打に到達し、93、94年にも本塁打王を獲得するなど、その後もブライアントは長く近鉄の主砲として活躍した。88年のトレードはデービスの不祥事による“苦肉の策”だったが、結果的に史上最も効果的なシーズン中トレードとなった。獲得を決断した近鉄の慧眼もさることながら、期待にこれ以上ない形で応えたブライアントも素晴らしかった。

構成●SLUGGER編集部
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