名将トニー・ラルーサが、来シーズンから再びホワイトソックスの指揮を執ることとなった。
彼のキャリアは栄光に満ちている。ホワイトソックス、アスレティックス、カーディナルスの3球団で計30年以上にわたって監督を務め、歴代3位の通算2728勝を挙げた。14度のポストシーズン進出も同じく3位。そのうち6度はリーグ優勝を飾り、アスレティックス時代の89年と、カーディナルス時代の2006年と11年にはワールドシリーズも制し、両リーグで世界一に輝いた史上2人目の監督にもなった。14年には殿堂入りも果たしている。
ただ、ユニフォームを脱いでから、もう9年が経つ。11年のワールドシリーズ優勝とともにラルーサは勇退。すでに76歳で、今シーズンの最年長だったダスティ・ベイカー監督(アストロズ)より5歳も上だ。年齢差のある選手と円滑な関係を築くとともに、近年急速に進んだデータ解析を活用することができるのか。また、高齢なだけに、新型コロナウイルス感染のリスクも懸念される。
どうやら今回の人事は、リック・ハーンGMを飛び越え、オーナーであるジェリー・ラインズドーフが決めたことのようだ。86年6月のラルーサ監督解任について、当時すでにオーナーだったラインズドーフは、これまでに幾度となく後悔の念を表明してきた。
こうして見ると、不安いっぱいの“お友達人事”のように感じるかもしれない。だが、そうとも言いきれない。この9年間、ラルーサはコミッショナー事務局や、ダイヤモンドバックス、レッドソックス、エンジェルスのフロントに籍を置き、球界に関わり続けてきた。決して竜宮城から帰ってきた浦島太郎ではない。
また、ラルーサはさまざまな“新戦術”を用いてきたことでも有名だ。デニス・エカーズリーをリリーフに転向させ、ほぼ9回に限定して登板させたのは、ラルーサと投手コーチのデーブ・ダンカンだ。それまでの抑え投手は、ピンチになれば登板する“ファイヤーマン”だったが、これによって“クローザー”という概念が生まれた。今は使えないが、以前のラルーサはワンポイントリリーフも多用していた。
攻撃面では、中軸の前に出塁できる打者を増やし、より多くの得点を挙げることを狙って、しばしば投手を8番に据えた。加えて、控え野手の運用もうまかった。スーパーサブとして06年のカーディナルスの世界一に貢献した田口壮もその一人だ。
ラルーサの手腕が現代に通用するかしないかは、来シーズンの結果が雄弁に物語るだろう。ホワイトソックスの再建期はすでに終わった。今シーズンに続いてポストシーズンにたどり着ければ「名将健在」と言われるが、それができなければ即座に時代遅れのレッテルを貼られることになるだろう。“名将”ラルーサは、就任1年目から試練の時を迎える。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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彼のキャリアは栄光に満ちている。ホワイトソックス、アスレティックス、カーディナルスの3球団で計30年以上にわたって監督を務め、歴代3位の通算2728勝を挙げた。14度のポストシーズン進出も同じく3位。そのうち6度はリーグ優勝を飾り、アスレティックス時代の89年と、カーディナルス時代の2006年と11年にはワールドシリーズも制し、両リーグで世界一に輝いた史上2人目の監督にもなった。14年には殿堂入りも果たしている。
ただ、ユニフォームを脱いでから、もう9年が経つ。11年のワールドシリーズ優勝とともにラルーサは勇退。すでに76歳で、今シーズンの最年長だったダスティ・ベイカー監督(アストロズ)より5歳も上だ。年齢差のある選手と円滑な関係を築くとともに、近年急速に進んだデータ解析を活用することができるのか。また、高齢なだけに、新型コロナウイルス感染のリスクも懸念される。
どうやら今回の人事は、リック・ハーンGMを飛び越え、オーナーであるジェリー・ラインズドーフが決めたことのようだ。86年6月のラルーサ監督解任について、当時すでにオーナーだったラインズドーフは、これまでに幾度となく後悔の念を表明してきた。
こうして見ると、不安いっぱいの“お友達人事”のように感じるかもしれない。だが、そうとも言いきれない。この9年間、ラルーサはコミッショナー事務局や、ダイヤモンドバックス、レッドソックス、エンジェルスのフロントに籍を置き、球界に関わり続けてきた。決して竜宮城から帰ってきた浦島太郎ではない。
また、ラルーサはさまざまな“新戦術”を用いてきたことでも有名だ。デニス・エカーズリーをリリーフに転向させ、ほぼ9回に限定して登板させたのは、ラルーサと投手コーチのデーブ・ダンカンだ。それまでの抑え投手は、ピンチになれば登板する“ファイヤーマン”だったが、これによって“クローザー”という概念が生まれた。今は使えないが、以前のラルーサはワンポイントリリーフも多用していた。
攻撃面では、中軸の前に出塁できる打者を増やし、より多くの得点を挙げることを狙って、しばしば投手を8番に据えた。加えて、控え野手の運用もうまかった。スーパーサブとして06年のカーディナルスの世界一に貢献した田口壮もその一人だ。
ラルーサの手腕が現代に通用するかしないかは、来シーズンの結果が雄弁に物語るだろう。ホワイトソックスの再建期はすでに終わった。今シーズンに続いてポストシーズンにたどり着ければ「名将健在」と言われるが、それができなければ即座に時代遅れのレッテルを貼られることになるだろう。“名将”ラルーサは、就任1年目から試練の時を迎える。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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