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プロ野球

野球界の“掟”に縛られない全力プレーでソフトバンクを牽引!頼れる4番グラシアルの“真面目伝説”

喜瀬雅則

2020.11.23

試合開始直後からヘッドスライディングを決めて、ユニフォームは泥だらけ。だが、それが全力プレー男グラシアルの持ち味なのだ。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

試合開始直後からヘッドスライディングを決めて、ユニフォームは泥だらけ。だが、それが全力プレー男グラシアルの持ち味なのだ。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 主力打者は「ヘッドスライディングを避けろ」というのが、プロ野球の世界では“不文律”になっている。下手をすれば大怪我の恐れもあるからだ。打線の中軸を打つようなバッターが戦線離脱のリスクを冒すことは、本来回避しなければならない。

【日本シリーズPHOTO】巨人2‐13ソフトバンク|デスパイネが満塁弾含む6打点と大暴れ!ソフトバンクが巨人に連勝!

 しかし、ソフトバンクの4番、35歳のジュリスベル・グラシアルは、そんな野球界の“掟”などに縛られない。「チームが勝つために、オレは全力を尽くすだけさ」とさらりと言ってのける助っ人は、軍人だった祖父の影響を受け、中学からキューバのミリタリー・スクール(軍隊学校)に通い、「将来は軍隊の仕事をして生きていこうと思っていた」と言う。

 だから、自らに対しても、そしてチームの規律に対しても、グラシアルは厳格な姿勢を崩さない。フォア・ザ・チームのプレースタイルはもちろん、練習でも手を抜かない。日本流のきっちりとメニューが組まれた全体練習に不平も漏らさず、黙々とこなす。そんなグラシアルの、普段通りともいえる“献身的なプレー”が光ったのは、日本シリーズ第2戦の初回だった。

 巨人先発の左腕・今村信貴の立ち上がりを攻め、1死一塁から柳田悠岐がセンターオーバーのタイムリー二塁打で先制。続くグラシアルの当たりは、二塁ベース方向へ転がった。二塁手の吉川尚輝が追いついたが、全力疾走のグラシアルに慌てたのか、一塁へ悪送球。この間に柳田が二塁から一気に生還して2点目が入った。
 
 さらに、初戦で3安打4打点の大活躍を見せた栗原陵矢が、またも一・二塁間を破った。右翼の松原聖弥は強肩に定評があり、次の打者は長打が期待できるデスパイネだ。これらの状況を踏まえれば、グラシアルは二塁にとどまっても構わない。いや、むしろ、無理をしなくてもいい状況だった。

 それでも、グラシアルは走った。金のネックレスを振り乱して二塁ベースを蹴ると、三塁へ頭から突っ込んでいった。4番打者のユニホームが、試合開始直後から泥だらけ。しかし、それこそがグラシアルのプレースタイルなのだ。

 デスパイネは、当たりの弱いサードゴロ。それでも三塁にいたから、グラシアルは楽々と3点目のホームを陥れた。そんなアグレッシブなプレーに続き、3回の第2打席では、巨人の2番手・戸郷翔征の135キロのスライダーを左中間スタンドへ運ぶ2ラン。「久しぶりにいい当たりの本塁打だったよ」と、本人も納得の一打でもチームを鼓舞し、15安打13得点の大勝に貢献した。

 今季のグラシアルは苦難の日々が続いた。今夏に予定されていた東京五輪に向け、キューバ代表として予選に出場するため3月上旬に離日。ところが、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で予選が延期になった上、キューバからも出国できなくなり、再来日は開幕から1か月後の7月19日までずれ込んだ。しかも来日直後は2週間の隔離期間が必要で、再調整も難しい状況が続いた。そんな中でも、リーグ優勝が決定した111試合目までに104通りのオーダーを組んだ今季のソフトバンクで、最多の31試合で4番を務めたグラシアルの存在は、いまやソフトバンクには不可欠なのだ。
 
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