プロ野球

17年の最優秀中継ぎ投手、岩嵜翔が完全復活――モイネロと森につなぐ“7回の男”に返り咲いた日本シリーズ

喜瀬雅則

2020.11.26

日本シリーズでは第2戦と第4戦の7回に登板。ソフトバンクの“勝利の方程式”の一翼を担った。写真:田口有史

 選手起用というのは、監督がチーム全体へ向けて送る"メッセージ"の役割がある。日本シリーズ第4戦。ソフトバンクが3点をリードしている7回表、巨人の攻撃を前に、工藤公康監督は敷田直人球審に歩み寄ると、5人目の投手・岩嵜翔の名を告げた。

 それは、4年連続日本一へ向け、このまま「逃げ切る」という、指揮官の意志を示している。2018年の右ヒジ手術、そして今季開幕直後の不振と数々の苦難を乗り越え、セットアッパーの座へと見事に返り咲いた31歳の岩嵜は、田中俊太、重信慎之介、大城卓三と続く下位打線をあっさりと三者凡退に打ち取り、8回の男モイネロへと勝利のバトンをつないだ。

 岩嵜は17年にリーグ最多の72登板とフル回転し、リーグ優勝と日本一に貢献。最優秀中継ぎ投手のタイトルも獲得する大活躍を見せた。しかし、その翌年は2度の右ヒジ手術を受け、結局18~19年は2年間で計4試合の登板に終わった。復活を期した今季は開幕一軍の座をつかみながらも、開幕直後の6月26日、対西武戦で木村文紀に満塁弾を被弾。翌27日の同カードでは、山川穂高に逆転3ランを浴びるなど精彩を欠き、ほどなく二軍落ちとなった。
 
 その"傷ついた右腕"に手を差し伸べたのは、今季限りで退団した久保康生・二軍投手コーチだった。

「一軍で調子が悪くなってくると、どうしても、コントロールを意識し過ぎてしまう。そうすると、どうしてもいいところに投げようという気持ちが強くなってしまって、腕を押し出すような感じになってしまう投手が多くなる」

 これは久保コーチの説明だ。つまり、丁寧にいこうとするあまり、よく言われる「置きに行く」投球になってしまうのだ。ただ、岩嵜の場合は190センチの長身から投げ下ろすストレートと、落差のあるフォークこそが最大の武器。しかし、コントロールを意識するあまりに右腕が"横振り"になれば、この武器は完全に威力を失ってしまう。
 
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