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MLB

16年カブス世界一に貢献した主砲が事実上の戦力外となった理由――シビアな『ノンテンダー制度』

出野哲也

2020.12.08

シュワーバー(右)は今季も4番か5番を打ち、ロザリオもずっとクリーンナップを打っていた。なのにどうして“戦力外”になるのか?(C)Getty Images

シュワーバー(右)は今季も4番か5番を打ち、ロザリオもずっとクリーンナップを打っていた。なのにどうして“戦力外”になるのか?(C)Getty Images

  現地時間12月2日、MLBでは57選手が「ノンテンダーFA」となった。この日は球団側が、メジャー在籍期間(サービスタイム)満3年以上6年未満の年俸調停資格を持つ選手に対し、来季の年俸を提示(=テンダー)する期限日だった。この日までに年俸提示を受けなかった選手は事実上の戦力外扱いとなり、自動的にフリー・エージェントとなる。

 今年は、2019年に38本塁打を放ったカイル・シュワーバー(カブス)や、同じく32本塁打を放ったエディ・ロザリオ(ツインズ)といった有力選手がノンテンダーとなったことが話題を集めている。実績十分でまだ年齢も若い彼らに球団側が契約を申し出なかったのは、一体なぜだろうか。

 MLBの年俸調停制度は日本と違って全選手が対象となり、しかも球団側に一方的に有利ということはない。それもあって、過去に同じような成績を残した選手の実績をベースに、それぞれの選手の新たな年俸について大体の「相場観」が広く共有されている。たとえば、今季年俸が700万ドルだったシュワーバーは900万ドル前後、775万ドルだったロザリオは1000~1200万ドル前後とみられていた。
 
 2人が契約を更新されなかった最大の理由がここにある。シュワーバーもロザリオも、調停を経て得るであろう来季の年俸が実力と比べて割高だと判断とされたのだ。

 シュワーバーは14年ドラフト全体4位指名で入団した生え抜きで、16年、108年ぶりの世界一にも貢献した人気者だが、今季は打率.188と低迷し、守備や走塁での貢献度も高くない。おまけにこのタイプの選手は900万ドルよりもっと安い年俸で獲得できる。ロザリオも事情は似ていて、4年続けてOPS.800前後と成績は安定しているものの出塁率が低く、レフトの守備もいまひとつとあって、今後の上がり目がないと判断されてしまったのだ。

 シュワーバーは来季28歳、ロザリオも29歳とまだ若く、しかも打線の中軸を任されている。このクラスの選手が簡単に切られるなど、日本ではまずあり得ない。だが、あくまでビジネス優先のMLBでは、年俸に見合う成績が期待できないとなればあっさりカットされてしまう。

 毎年、こうした形でレギュラー級の選手が何人かノンテンダーになるが、コロナ禍の影響でどこの球団も緊縮財政を強いられている今年は例年以上にシビアな判断が下された。

 意外だったのがロザリオと同じツインズの右腕マット・ウィスラーだった。今季は18試合に投げて防御率1.04、奪三振率12.43と素晴らしい成績をマーク。しかも、年俸もたった75万ドルで、昇給幅もそれほど大きくなかったはずなのに、それでも契約更新を見送られてしまった。

 いずれにせよ、ノンテンダーの選手が大勢出たことはFA市場にも大きな影響を与えそうだ。市場がだぶついて供給過多となることでさらに相場が下がり、ただでさえFA選手にとって厳しかった状況はさらに悪化することになるだろう。

 これは、メジャーを目指す日本人選手にとっても他人事ではない。シュワーバーとロザリオはいずれも外野手。選手としてのタイプは違うとはいえ、ポスティングでのメジャー移籍を目指す西川遥輝(日本ハム)にも影響が及ぶ可能性が高い。昨オフ、菊池涼介(広島)がメジャー挑戦を断念せざるを得なかったのも、FA市場に二塁手が多数いたことが原因の一つになっていた。

 だが逆に、NPB球団にとっては17年にブルワーズで30本塁打を放ったドミンゴ・サンタナ(4日にヤクルトと契約)のように、メジャーで実績を残した選手を獲得できるチャンスでもある。日本ではあまり知られていない「ノンテンダーFA」だが、実は日本球界とも密接に関係しているのだ。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。

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