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プロ野球

【プロ野球秘話】再建を託されて「怖いんですわ」と本音。村山実の言葉から分かる阪神監督の凄まじいプレッシャー

北野正樹

2021.01.02

プロ14年間で通算222勝を挙げた村山にとっても、再建の重圧は相当のモノだった。写真:産経新聞社

プロ14年間で通算222勝を挙げた村山にとっても、再建の重圧は相当のモノだった。写真:産経新聞社

 1985年に球団初の日本一に輝いた吉田義男率いる阪神は、87年に41勝83敗6分け。勝率3割3分1厘で球団創設以来、ワーストの最下位に終わった。

 この危機にタイガース再生を託されたのが、ミスタータイガース・村山実だった。
 15年ぶりの監督復帰。70年から3年間、監督を務めた村山にとって、火中の栗を拾う役目であることは百も承知の就任だった。監督復帰が報道された87年10月14日の早朝。電話取材に応じた村山は、監督就任要請を受けたことを認めた後、「受けるのか」と問われ、驚くべき言葉を吐いた。

「怖いんですわ」

 新人の1959年、6月のプロ野球初の天覧試合に登板するなど18勝10敗、防御率1.19と、エースクラスの成績をマーク。打者に全身で向かって行く姿を、荒い息づかいで表情をゆがめて走り、ロンドン、ヘルシンキ両五輪の陸上競技で金メダルを獲得した人間機関車と称されたザトペックになぞらえ「ザトペック投法」と呼ばれた「ミスタータイガース」。

 プロ14年間で通算222勝(147敗)を挙げ、防御率2.09を誇る大エースが漏らした耳を疑う言葉だった。
 
 兵庫県芦屋市の自宅前で報道陣の取材に、同日午前7時に岡崎義人球団社長から電話で監督就任要請があったことを認めた村山は「今のチーム状態を考えると、正直言って要請を受けるのが怖い気落ちです。どのように再建すればいいのか……。返事は24時間待ってほしい。OBとしてタイガースには人一倍愛着があり、前向きに考えるのは当然です」と、ここでも揺れる思いを吐露している。

 10月15日、岡崎球団社長と会談し受諾した村山だが、杞憂が現実のものとなる。

 引き受けた87年のチームは、2年前に日本一に輝いた同じチームとは思えないほどの低迷ぶりだった。序盤戦の8連敗を含め、8連敗が3度。6月には主軸の掛布雅之が腰痛でリタイア。竹之内雅史コーチがチーム再建策を巡って吉田と対立し、遠征先の札幌から帰阪しそのまま退団する造反劇もあり、浮上することなくシーズンを終えた。

 そんなチームの立て直しは、相当の覚悟がなければ引き受けられない。また、村山には野球人以外に、社員を抱えるスポーツ用品販売会社の経営者としての顔もあった。永久欠番の「11番」を背負っての再登板には、すべてを投げうって愛する阪神の再建を引き受けるという不退転の思いも込められていたのだろう。
 

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