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21年連続で球宴出場、KKKに脅かされた少年時代――アーロンが残した記録と逸話の数々

宇根夏樹

2021.01.30

アーロンが打ち立てた数々の偉業は、今後も球史に刻まれ続けるだろう。(C)Getty Images

 先日、86歳の生涯を閉じたハンク・アーロンは、今から47年前にベーブ・ルースが持っていた通算714本塁打の最多記録を塗り替えた。この偉業は日本でも広く知られているが、アーロンの大記録や逸話は他にいくつもある。今回はその中から6つを紹介しよう。

▼差別に立ち向かった生涯
 アーロンが生まれ育ったアラバマ州モービルは深南部で黒人差別が激しい地域だった。アーロンが住む地域にも夜な夜なクー・クラックス・クラン(KKK。アメリカの白人至上主義団体)が現れ、母親に「ベッドの下に隠れていなさい」と言われたことがあったと回想している。メジャーデビューした頃は遠征で白人選手と同じホテルに宿泊できず、数少ない黒人のチームメイトと粗末な黒人用の宿や黒人家庭に泊まったこともあった。

 ルースの記録に迫りつつある時も「出場するな。さもなければお前を撃つ」「子供を誘拐するぞ」といった脅迫状が届き、アーロンと家族には護衛が付けられたほどだった。通算713号でシーズンを終えた73年のオフは、記録へのプレッシャーと脅迫の中で、さぞ長い日々だったに違いない。アーロンが715本目の本塁打を打った試合を実況したビン・スカリーは、「いつもはポーカーフェイスのアーロンが、ようやく安堵の表情を見せました」と伝えている。
 
▼通算本塁打が1位でなくなっても…
 通算本塁打記録は2007年にバリー・ボンズが塗り替えたが、アーロンは他にも史上最多記録を保持している。1477長打と6856塁打、2297打点は歴代1位。現役1位のアルバート・プーホルス(エンジェルス)は歴代5位の1347長打と5923塁打、3位の2100打点を残しているが、すでに41歳。あと数年プレーできたとしても、アーロンの記録には届かない可能性が高い。20代の現役選手の最多はマイク・トラウト(エンジェルス)が持つ610長打、2642塁打、798打点だが、いずれもまだアーロンの半分にも達していない。

▼21年連続でオールスター出場
 これほどの数字を積み上げるには、長年にわたって一線級の活躍を続ける必要がある。アーロンはメジャー2年目の55年から、シーズン20本塁打以上を20年にわたって続けた。それだけでなく、ルーキーイヤーとラストイヤーを除く55~75年は、何と21年連続でオールスターに選出されている。この2つはともに歴代最長のストリークだ。54~61年にチームメイトだったジョニー・ローガンは、アーロンの衰えを知らない活躍ぶりを、「アーロンはミシシッピ河のようだ。途絶えることがない」と評した。