プロ野球

「野球小僧になろう」。現役時代に実績のないオリックスの水本勝己・新ヘッドコーチに期待される指導力<SLUGGER>

北野正樹

2021.02.16

広島2軍監督から就任した水本ヘッドコーチは、中嶋監督から全幅の信頼を得ている。写真:北野正樹

 中嶋聡監督で、新たなスタートを切った2021年のオリックス。25人の監督・コーチの首脳陣のうち、新任が8人とフレッシュな顔ぶれが揃った。中嶋監督が最も信頼を寄せるのが、広島2軍監督から就任した水本勝己ヘッドコーチだろう。広島での現役生活はわずか2年。1軍経験もないが、若手育成や選手の気持ちに沿ったきめの細かい指導力には定評のある参謀。育てながら勝つという、今のオリックスには最適任者だ。
 
 宮崎市の清武総合運動公園(SOKKENスタジアム)で、1、2軍合同で行われているオリックスの春季キャンプ。広い敷地内で180センチ、102キロの巨漢、水本ヘッドコーチを探すのは大変だ。A組の本球場にいたと思えばブルペンに姿を見せ、B組の第2球場、投内連係が行われているサブグラウンドと、目まぐるしく移動を重ねる。「(チームで)一番、動いているのではないですか」と森川秀樹・球団本部長がお墨付きを与えるほどだ。
 
 倉敷工時代は強打の捕手として夏の甲子園に出場。社会人野球の名門・松下電器(現パナソニック)を経て、広島のテストに合格し1989年にドラフト外で入団した。現役生活は2年。1軍での試合出場もない。それでも、長いブルペン捕手生活から2軍バッテリーコーチを経て、2016年から2軍監督に就任した、カープたたき上げの野球人だ。2年目の17年にはウエスタン・リーグで26年ぶりの優勝、初のファーム日本一に導いたほか、1軍に人材を送り込むことで広島のリーグ3連覇を支えた。
 
 静と動だ。本球場では本塁後方や三塁側、二遊間、一塁側へといつの間にか場所を変え、多角的な視点で静かに練習を見守る。次の瞬間、動に転じる。選手への声掛けだ。紅白戦では三塁コーチャーの風岡尚幸・内野守備走塁コーチの後方から「ここからだ。粘っていこう」と、カウントを追い込まれた打者に声かけた。タイミングも絶妙。B組から一時的にA組に合流したT-岡田には、ウォーミングアップのダッシュを見て「T、いい動きだ」。水本ヘッドは「意識して声掛けをしているわけではない」というが、声をかけられたベテランが発奮しないわけはない。
 
 ブルペン捕手として経験を重ねてきた水本ヘッドの真骨頂は、若い投手陣への接し方だ。シート打撃に一番手として登板した、高卒7年目の鈴木優。首脳陣が見守る、それでなくても緊張する場面で、審判の判定はボール。すかさずあげた言葉は「ナイスボール」だった。審判がゾーンで判断すれば「ボール」だが、ボールの質やコース、高低などは自信を持っていいんだぞ、というマウンドの鈴木への激励。「ほとんどの人が、審判がボールと判定しただけで投球を判断してしまう。そんな中で、ボールと言われても内容が良ければいいんだと言ってくれる、ヘッドの一声は心強かった」と鈴木は振り返る。