プロ野球

オリックス「なにわのHERO始球式」に人命救助の元高校球児が登板!街のヒーローを称える企画がスタート

北野正樹

2021.04.05

大城さんは川に転落した女性を救助し、大阪府警浪速署から感謝状を贈られた。写真:北野正樹

 なにわのヒーローを称えます――オリックスが今シーズンから、本拠地での試合前の始球式に、大阪の街を明るくすることなどに貢献した地元のヒーローを招く「なにわのHERO始球式」を始めた。3月31日のソフトバンク戦では、人命救助した元高校球児が登板し、観客から盛んな拍手を浴びた。

 ヒーローによる始球式の第1号は、大阪市に住む大城良将さん(18)。3月1日に自転車で帰宅途中、自宅近くの橋から飛び降りようとしている女性を発見した。声をかけ思いとどまらせようとしたが、女性は約6メートル下の川に転落。携帯電話で110番通報しながら堤防沿いに約150メートル追いかけ、船をつなぐロープを投げて女性につかまらせた。女性は、駆け付けた警察官に救助され、一命をとりとめた。

 迅速な通報に加え、冷たい川に飛び込まず、二次被害を防ぐためロープを要救助者に投げる沈着冷静な行動が人命救助につながったことから、大城さんは大阪府警浪速署から感謝状を贈られた。
 
 大城さんは、事件当時、大商大付属高校3年で元球児。「小学校から野球をやっていて、監督さんやコーチから『困っている人がいたら助けろ』と言われていた。絶対に助けようと思った」という大城さんの善行を報道で知った、オリックス球団の総務部担当部長兼国際渉外部アジア担当の中村潤さんが、球団広報部の花木聡さんに連絡。

 これまで、地域に密着した企画を行ってきたオリックス。さらに、花木さんには米スーパーボールの試合前セレモニーに、両エンジンが停止した旅客機をハドソン川に不時着させ乗員・乗客の命を救ったパイロットのチェズレイ・サレインバーガーさんらクルーが招かれ、スタンディングオベーションを受けた光景が脳裏にあった。いつか同じようなことが出来ないかと考えていたことから、ヒーローによる始球式の企画がスタートした。
 
 警察を通じてオリックスから連絡を受けた大城さんは、「観戦に訪れたこともある京セラドーム大阪で始球式が出来るなんて光栄」と、快諾。3月31日、本拠地開幕カードのソフトバンクとの第2戦にヒーローによる始球式が実現した。場内のスクリーンで救出劇を報じるテレビ映像で紹介を受けた後、大城さんが登場。打席に立ったオリックスの宗佑磨選手に対し、ノーバウンドで投球して1万人近い観客の拍手を浴びた。宗選手からは「野球をやっていたの。いいボールだったよ」と声を掛けてもらったという。マウンドに立つのは中学生以来。これまで、最高で保護者ら30人程度の中でしか投げたことがなかったが、今回はマウンドから客席を見渡す余裕があったそうだ。

 翌日の4月1日から飲食関係の会社に就職し、社会人として出発する大城さんは「警察から感謝状をもらった時より、今回の始球式の方がうれしかった。(見返りを求めてしたことではないが)いい行いをすれば、いいことが訪れることもわかった」。

 イベントを主に企画する部門でない職員による発案で始まった今回の始球式。オリックスでは、以前から職域を越えてファンに喜んでもらえるアイデアを社内で募っており、これまでも球場を運営する大阪シティードームのスタッフが考えた、大阪桐蔭高校ブラスバンド部による高校野球の応援を取り入れたりしてきた。部際を越えてアイデアを持ち寄っていたからこそ、短期間で実現した企画でもある。

 広報部の西田光さんは「今回はニュースなどで取り上げられた方にお願いしたが、これからは、広く知られてはいなくても大阪を明るくしてくれた方々も、随時、紹介させていただきたい」と話している。

文●北野正樹(フリーライター)

【著者プロフィール】
きたの・まさき/1955年生まれ。2020年11月まで一般紙でプロ野球や高校野球、バレーボールなどを担当。南海が球団譲渡を決断する「譲渡3条件」や柳田将洋のサントリー復帰などを先行報道した。