2019年オフ、アストロズとレッドソックスによる「サイン盗みスキャンダル」は世界的な大騒動へと発展したが、その問題を起こしていたのが、2球団だけではない可能性が出てきた。
証言したのは、昨シーズン限りで引退した元捕手のエリック・クラッツだ。自身が出演したポッドキャスト「カーテン・コール」で他チームのサイン盗みについて発言したのである。
クラッツが名指ししたのは、ロッキーズだ。18年にセラガン(銃に似た形をしたマッサージ機器)を使い、ダグアウトのベンチの金属部分を叩いてテレビの画面から読み取った相手バッテリーのサインを打者に伝えていたという。音でサインを伝達するのは、ゴミ箱を叩いていたアストロズと同じ手口だ。
また、クラッツは「アストロズがやっていたことが正しいとは言わないが、18年に(サインを盗んでいた)2チームを知っている。当時、僕はナ・リーグにいた(ブルワーズに在籍)。この2チームはワールドシリーズで優勝しなかったけど、かなり似たことをやっていた」と明言。どうやら、ロッキーズの他に1チームがサイン盗みをしていたらしい。
ちなみに同元捕手は、それがどのチームなのかは明かさなかったものの、「最近よくワールドシリーズに出ているチーム」とヒント(?)を出している。
これが事実なら、"容疑者"はかなり絞られる。クラッツの現役時代は10年から20年まで。その間にワールドシリーズに2度以上出場したチームは7つあるが、アストロズとレッドソックスでないのは確かだ。すでにサイン盗みがバレているのだから、チーム名を伏せる必要がないからである。
残る5チームは、レンジャーズ(10~11年)、カーディナルス(11年、13年)、ジャイアンツ(10年、12年、14年)、ロイヤルズ(14~15年)、そしてドジャース(17~18年、20年)となるが、「最近よく」という表現が当てはまるのは、ドジャースだろう。
サインを盗んでいたアストロズを加害者と呼ぶなら、ドジャースは「最大の被害者」と形容できる。17年のワールドシリーズで、ドジャースは3勝4敗でアストロズに敗れた。当時はドジャースにいたダルビッシュ有(現パドレス)が2登板とも2回途中でKOされた、あのシリーズだ。
だが、すべてがクラッツの言うとおりで、どのチームなのかについての推測が当たっているとすれば、ドジャースもアストロズと同じ側となる。17年にサインを盗まれ、翌年からサインを盗み始めたとしても、不正に変わりはない。
ロッキーズにしても、他の1チームにしても、クラッツの発言だけでサインを盗んでいたと断定はできない。だが、こちらについてもMLB機構は調査を行うべきではないだろうか。アストロズは当時のジェフ・ルーノーGMとAJ・ヒンチ監督(現タイガース監督)が停職処分を受けると同時に職を解かれ、レッドソックスのアレックス・コーラ監督も同様の処分を受けた(今季から復帰)。
仮に他にサイン盗みをしていたチームがあるとすれば、まったくのお咎めなしでは筋が通らない。真相がどうであれ、うやむやのままでは良くないだろう。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
証言したのは、昨シーズン限りで引退した元捕手のエリック・クラッツだ。自身が出演したポッドキャスト「カーテン・コール」で他チームのサイン盗みについて発言したのである。
クラッツが名指ししたのは、ロッキーズだ。18年にセラガン(銃に似た形をしたマッサージ機器)を使い、ダグアウトのベンチの金属部分を叩いてテレビの画面から読み取った相手バッテリーのサインを打者に伝えていたという。音でサインを伝達するのは、ゴミ箱を叩いていたアストロズと同じ手口だ。
また、クラッツは「アストロズがやっていたことが正しいとは言わないが、18年に(サインを盗んでいた)2チームを知っている。当時、僕はナ・リーグにいた(ブルワーズに在籍)。この2チームはワールドシリーズで優勝しなかったけど、かなり似たことをやっていた」と明言。どうやら、ロッキーズの他に1チームがサイン盗みをしていたらしい。
ちなみに同元捕手は、それがどのチームなのかは明かさなかったものの、「最近よくワールドシリーズに出ているチーム」とヒント(?)を出している。
これが事実なら、"容疑者"はかなり絞られる。クラッツの現役時代は10年から20年まで。その間にワールドシリーズに2度以上出場したチームは7つあるが、アストロズとレッドソックスでないのは確かだ。すでにサイン盗みがバレているのだから、チーム名を伏せる必要がないからである。
残る5チームは、レンジャーズ(10~11年)、カーディナルス(11年、13年)、ジャイアンツ(10年、12年、14年)、ロイヤルズ(14~15年)、そしてドジャース(17~18年、20年)となるが、「最近よく」という表現が当てはまるのは、ドジャースだろう。
サインを盗んでいたアストロズを加害者と呼ぶなら、ドジャースは「最大の被害者」と形容できる。17年のワールドシリーズで、ドジャースは3勝4敗でアストロズに敗れた。当時はドジャースにいたダルビッシュ有(現パドレス)が2登板とも2回途中でKOされた、あのシリーズだ。
だが、すべてがクラッツの言うとおりで、どのチームなのかについての推測が当たっているとすれば、ドジャースもアストロズと同じ側となる。17年にサインを盗まれ、翌年からサインを盗み始めたとしても、不正に変わりはない。
ロッキーズにしても、他の1チームにしても、クラッツの発言だけでサインを盗んでいたと断定はできない。だが、こちらについてもMLB機構は調査を行うべきではないだろうか。アストロズは当時のジェフ・ルーノーGMとAJ・ヒンチ監督(現タイガース監督)が停職処分を受けると同時に職を解かれ、レッドソックスのアレックス・コーラ監督も同様の処分を受けた(今季から復帰)。
仮に他にサイン盗みをしていたチームがあるとすれば、まったくのお咎めなしでは筋が通らない。真相がどうであれ、うやむやのままでは良くないだろう。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。