まさに激闘、というような試合だった。
8月4日、侍ジャパンは宿敵韓国と対戦し、5対2で勝利して決勝戦進出を決めた。日本は先発の山本由伸(オリックス)の好投に応えるように、5回までに2点を加えて中盤までリードしていた。しかし、6回に同点に追いつかれると、その後は膠着状態が続き、ピンチもあった。それでも、8回の満塁のチャンスに山田哲人(ヤクルト)が値千金のタイムリーを放ち、劇的な形で勝利を収めたのだった。
最大のハイライトは山田の一打だろうが、勝利投手となった伊藤大海(日本ハム)のピッチングも印象的だった。7回からマウンドに上がった右腕は切れ味抜群のストレート、スライダー、カーブを駆使して2つの三振を奪うと、8回も無失点に抑えて日本に流れを呼び込んだ。
そのボールだけでなく、今年プロ1年目とは思えぬ堂々とした佇まいは貫録すら感じさせるものだった。稲葉篤紀監督がルーキーを代表に抜擢したのも、大舞台でも物怖じしない姿勢もあったはずだ。そしてその原点は、大学日本代表で培われたものだと感じる。
伊藤は苫小牧駒澤大3年次の2019年、日米大学野球の日本代表に選出された。母校では先発エースだったが、同じく今回の五輪代表で戦う森下暢仁(現・広島/当時明治大)らがいたこともあって、この大学代表ではクローザーを任された。抑えに回った伊藤のボールは一段と球威が増し、彼の好投もあって日本は3勝2敗で全米選抜を下した。
そのメンバーには、後にMLBドラフト上位指名を勝ち取った選手も数多くいた。2020年ドラフト全体1位のスペンサー・トーケルソン、全体2位のヘストン・カースタッド、全体5位のオースティン・マーティンらだ。そして、8月3日の韓国戦での伊藤の投球を見て思い出したのが、超有望株であるトーケルソンの言葉だった。
日米大学野球で日本が勝利して歓喜に沸くなか、私はアリゾナ州大のスラッガーに話を聞き入った。「印象に残った投手は誰か」との問いに、トーケルソンはすぐに「9回に投げたピッチャー、イトウだね」と答えてくれた。実際、シリーズ通して2度対戦し、ともに三振に打ち取られており、やはり悔しい想いがったのだろう。
「ストレートが厄介だった。投げるテンポが速くてタイミングが取りづらく、スライダーも切れがいい。いいクローザーだね」
アメリカ代表には伊藤よりも球速が速い投手はいたが、計測以上に感じさせるフォーム、伸びがあったと感じさせたようだ。ただ、勘違いさせてはいけないと思い、私はトーケルソンに「今回はリリーフだったけど、本職はスターター(先発)だよ」と教えた。すると、1年後に全体1位指名を勝ち取った男は苦笑いを浮かべながら「もしスターターでも同じレベルを維持できたら、すごい投手になるだろうね」と語り、神宮球場を後にしたのだった。
韓国戦、伊藤が見せたパフォーマンスは、まさにトーケルソンの言葉が表していたものだった。タイミングの取りづらい、投げっぷりのいいフォームから強力打線を抑え込み、スライダーで空振り三振も奪った。そして、緊迫した場面でも動じない姿勢は、大学の時と何ら変わらぬ姿でもあった。
伊藤は今季、日本ハムで13先発し、7勝4敗、防御率2.42、奪三振率9.59というルーキー離れした投球を披露している。今回の代表で得た経験を先発に生かした時、トーケルソンの“予言”するすごい投手に、さらにステップアップする予感が漂っている。
取材・文●新井裕貴(THE DIGEST編集部)
8月4日、侍ジャパンは宿敵韓国と対戦し、5対2で勝利して決勝戦進出を決めた。日本は先発の山本由伸(オリックス)の好投に応えるように、5回までに2点を加えて中盤までリードしていた。しかし、6回に同点に追いつかれると、その後は膠着状態が続き、ピンチもあった。それでも、8回の満塁のチャンスに山田哲人(ヤクルト)が値千金のタイムリーを放ち、劇的な形で勝利を収めたのだった。
最大のハイライトは山田の一打だろうが、勝利投手となった伊藤大海(日本ハム)のピッチングも印象的だった。7回からマウンドに上がった右腕は切れ味抜群のストレート、スライダー、カーブを駆使して2つの三振を奪うと、8回も無失点に抑えて日本に流れを呼び込んだ。
そのボールだけでなく、今年プロ1年目とは思えぬ堂々とした佇まいは貫録すら感じさせるものだった。稲葉篤紀監督がルーキーを代表に抜擢したのも、大舞台でも物怖じしない姿勢もあったはずだ。そしてその原点は、大学日本代表で培われたものだと感じる。
伊藤は苫小牧駒澤大3年次の2019年、日米大学野球の日本代表に選出された。母校では先発エースだったが、同じく今回の五輪代表で戦う森下暢仁(現・広島/当時明治大)らがいたこともあって、この大学代表ではクローザーを任された。抑えに回った伊藤のボールは一段と球威が増し、彼の好投もあって日本は3勝2敗で全米選抜を下した。
そのメンバーには、後にMLBドラフト上位指名を勝ち取った選手も数多くいた。2020年ドラフト全体1位のスペンサー・トーケルソン、全体2位のヘストン・カースタッド、全体5位のオースティン・マーティンらだ。そして、8月3日の韓国戦での伊藤の投球を見て思い出したのが、超有望株であるトーケルソンの言葉だった。
日米大学野球で日本が勝利して歓喜に沸くなか、私はアリゾナ州大のスラッガーに話を聞き入った。「印象に残った投手は誰か」との問いに、トーケルソンはすぐに「9回に投げたピッチャー、イトウだね」と答えてくれた。実際、シリーズ通して2度対戦し、ともに三振に打ち取られており、やはり悔しい想いがったのだろう。
「ストレートが厄介だった。投げるテンポが速くてタイミングが取りづらく、スライダーも切れがいい。いいクローザーだね」
アメリカ代表には伊藤よりも球速が速い投手はいたが、計測以上に感じさせるフォーム、伸びがあったと感じさせたようだ。ただ、勘違いさせてはいけないと思い、私はトーケルソンに「今回はリリーフだったけど、本職はスターター(先発)だよ」と教えた。すると、1年後に全体1位指名を勝ち取った男は苦笑いを浮かべながら「もしスターターでも同じレベルを維持できたら、すごい投手になるだろうね」と語り、神宮球場を後にしたのだった。
韓国戦、伊藤が見せたパフォーマンスは、まさにトーケルソンの言葉が表していたものだった。タイミングの取りづらい、投げっぷりのいいフォームから強力打線を抑え込み、スライダーで空振り三振も奪った。そして、緊迫した場面でも動じない姿勢は、大学の時と何ら変わらぬ姿でもあった。
伊藤は今季、日本ハムで13先発し、7勝4敗、防御率2.42、奪三振率9.59というルーキー離れした投球を披露している。今回の代表で得た経験を先発に生かした時、トーケルソンの“予言”するすごい投手に、さらにステップアップする予感が漂っている。
取材・文●新井裕貴(THE DIGEST編集部)