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MLB

名作映画の舞台で“夢の公式戦”が開催! 今も語り継がれる『フィールド・オブ・ドリームス』の魅力とは?<SLUGGER>

宇根夏樹

2021.08.12

イベントのプロモーションのため、トウモロコシ畑をバックに特別ユンフォームを着用したリアム・ヘンドリクス(ホワイトソックス)。彼もこの映画のファンの一人だ。(C)Getty Images

イベントのプロモーションのため、トウモロコシ畑をバックに特別ユンフォームを着用したリアム・ヘンドリクス(ホワイトソックス)。彼もこの映画のファンの一人だ。(C)Getty Images

 8月12日のホワイトソックス対ヤンキースの試合は、ホワイトソックスの本拠地シカゴではなく、アイオワ州ダイアーズビルの球場で行なわれる。

 この一戦は、レギュラーシーズンにカウントされるが、『MLB at フィールド・オブ・ドリームス』と銘打ち、両チームの選手は20世紀初頭を模した特別仕様のユニホームを着てプレーする。

 舞台となる球場は、1989年公開の映画『フィールド・オブ・ドリームス』で使われた球場の隣に建てられた。ふだん使用している球場で映画を撮影するのではなく、その逆のパターンは、おそらく初めてのケースだろう。本来は昨年、開催されるはずだったのが、コロナ禍によって1年延び、ようやくその時を迎えたのだ。

 若いファンには馴染みが薄いかもしれないが、ケビン・コスナーが主演した『フィールド・オブ・ドリームス』は、野球映画の最高傑作に挙げる人も少なくない名作。公開当時は日本でもヒットし、93年生まれのタイラー・グラスノー(レイズ)も好きな野球映画として、『サンドロット/僕らがいた夏』とともにこの映画を挙げている。

 これから観る人のためにあまり深いネタバレは控えるが、軽く物語のあらすじを説明しておこう。

 アイオワでトウモロコシ農家を営む主人公はある日、どこからか聞こえてきた「それを造れば、彼はやってくる」という声に導かれ、トウモロコシ畑の一部をつぶして野球場を造る。するとある日の夜、そこへ現われたのは、すでに亡くなったはず往年の名選手、シューレス・ジョー・ジャクソンだった……というものだ(W・P・キンセラによる原作の題名は『シューレス・ジョー』である)。
 
 ジャクソンは1919年のワールドシリーズで八百長を働き、球界を追放されたホワイトソックス(『ブラックソックス・スキャンダル』)の選手の一人だ。だが、これは決してMLBの歴史マニア向けの作品ではない。むしろ描かれているのは、普遍的なテーマである「家族愛」だ。

 ピューリッツァー賞を受賞したこともあるアメリカで最も著名な映画評論家の一人、ロジャー・イーバート(故人)は、公開当時の批評で「この映画のテーマの一つは、愛する人の夢を共有することだ」と書いている。この映画は一人で観てもいいが、できれば家族で鑑賞することをお勧めしたい。

 あえて歴史的な事実を補足するなら、ジャクソンらは裁判で無罪を宣告されたにもかかわらず永久追放処分を受けたため、“アンラッキー・エイト”と呼ばれるなど、同情的に捉えられることが多いのだ。

 このような悲劇性を持つ人物を中心に据えたことで、ストーリーに深みを与えている。それは映画を見る前に抑えておくべき点だろう。また、ジャクソンらがプレーしていた1910年代が、いまだフロンティア・スピリットが色濃く残っていた“古き良き時代”だという点も、アメリカの人々の郷愁をそそる魅力の一つである。

 今回の試合のために建設された球場の客席はわずか8000。このため、チケットはプレミア化しており、平均価格は日本円にしておよそ15万円を超えるという。それだけ『フィールド・オブ・ドリームス』の人気が高いということだが、これを1度だけのイベントにしてしまってはもったいない。来年以降もぜひ継続してほしい。
 
文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
 

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