おそらく、記者たちの多くは試合原稿の大半を書き終えていたに違いない。

　第２日目の第２試合、広島新庄が２対０と横浜をリードして迎えた９回裏、試合の大勢がほぼ決まったかのように見えていた。

　試合は、広島新庄の完璧な試合運びで進んでいた。２点を追う９回裏、横浜は無死からの連打で一、三塁の好機を作ったが、続く２人が倒れて２アウト。広島新庄のマウンドには１年時からベンチ入りし、甲子園を３度経験しているサウスポーの秋山恭平が立っていた。バッターボックスに立つ横浜の１番打者、１年生の緒方蓮には荷が重いだろう。そんな予測がついていた。

　ところが、である。

「３年生のために」という思いで入ったという緒方がカウント０－１からのストレートを振り抜くと、打球は左翼スタンドに吸い込まれ。試合をひっくり返す起死回生の逆転サヨナラ３ラン。横浜が最後の最後に勝利を収めたのだった。 「手応えは人生で一番いい打球でした。行ってくれと思いながら走っていました。甲子園に来ておどおどするのではなく、自分のできることを最大限やろうと思っていました」

　緒方は殊勲打をそう振り返っている。

　高校入学後の初の公式戦本塁打が甲子園のサヨナラ弾というから、野球は本当に何が起きるから分からない。

　この光景が信じられないのは、ただ、奇跡的なサヨナラ弾だったからだけではない。この場面で本塁打が出るとは思えないほど、広島新庄が横浜に対して素晴らしい戦いを見せてきていたからだ。

　先発したエースの花田侑樹は130キロ後半のストレートを武器に、ボールを低めに集める投球で６回まで５安打無失点に封じ、７回表の先頭打者を四球で出したところで交代。その後を受けたサウスポーの西井拓大も、花田の出した走者をしっかり抑えて無失点。２イニングをピシャリと抑えていた。