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MLB

『マネー・ボール』で球界に革命を起こした男、ビリー・ビーンがアスレティックスを去ってメッツへ!?<SLUGGER>

宇根夏樹

2021.09.23

19年のMLB日本開幕戦でも来日したビーン。日本でも知名度が高く大人気だった。(C)Getty Images

19年のMLB日本開幕戦でも来日したビーン。日本でも知名度が高く大人気だった。(C)Getty Images

 貧乏球団アスレティックスを、データ分析を駆使して強豪チームに押し上げたビリー・ビーンを描いたベストセラー『マネー・ボール』の出版から15年以上が経った。現在もビーンはアスレティックスのチーム編成を統括する立場だが、今オフ、ボブ・メルビン監督とともに他球団へ“移籍”するかもしれない。今月中旬、複数のメディアが「メッツがこの2人を迎え入れる」可能性について報じた。

 メッツの事情はこうだ。昨オフに球団を買収したオーナーのスティーブ・コーエンは、サンディ・アルダーソンを球団社長に招き、ジャレッド・ポーターをGMに据えた。ところが、ポーターは女性記者にセクハラメールを送りつけていた過去が発覚し、就任1か月で解任。GM補佐のザック・スコットがGM代行となったが、そのスコットも9月上旬に飲酒運転で逮捕され、休職処分となってしまった。

 球界屈指の遊撃手フランシスコ・リンドーアを獲得するなど大型補強を展開したことからも分かるように、コーエンは就任1年目から結果を求めていた。だが、今季はポストシーズンへ進出する可能性はほぼゼロ。捲土重来を期す来季に向け、メッツは辣腕の編成トップを必要としているのだ。すでに73歳のアルダーソンは、かつてのように編成責任者として手腕を振るう気はないらしい。
 
 新たな編成トップとしてビーンの名前が挙がる理由も、他ならぬアルダーソンにある。2人は師匠と弟子のような関係なのだ。1980年にドラフト1巡目でメッツから指名されながら、選手としては芽が出なかったビーンは引退後、当時アスレティックスのGMだったアルダーソンの下でスカウトに転身し、その後GM補佐も務めた。マネー・ボール理論の原型となった野球史家ビル・ジェームズの著作も、アルダーソンから紹介されたもの。『マネー・ボール』の生みの親はアルダーソンだった、と言うこともできる。

 2人の関係は現在も良好だ。1997年10月にGMの座をビーンに譲ったアルダーソンはその後、MLB機構、パドレス、メッツを経て、ビーンのアドバイザーとしてアスレティックスへ戻り、その後、現在の通りメッツに移った。ビーンとメルビンがセットになっているのは、メルビンがビーンの下で誰よりも長く監督を務めているからだろう。

『マネー・ボール』でも描かれているように、ビーンは2002年オフにレッドソックスへ引き抜かれかけた。この時はアスレティックスにとどまったが、今度は違う可能性もある。

 アルダーソンだけが理由ではない。ビーンの下でアスレティックスはポストシーズンに11度進出したが、世界一どころかリーグ優勝することすらできていない。キャリアの集大成として、資金力の豊富なメッツでワールドチャンピオンを……とビーンが考えても不思議ではない。革命児ビーンとアスレティックスの長年にわたる蜜月は、ついに終焉を迎えるのだろうか。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
 

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