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MLB

ファームシステム導入、マネーボール、そしてフライボール革命――MLBイノベーションの歴史

出野哲也

2019.12.05

MLBの歴史に残る「改革者」ビリー・ビーン。『マネーボール』はブラッド・ピット主演で映画化された。(C)Getty Images

MLBの歴史に残る「改革者」ビリー・ビーン。『マネーボール』はブラッド・ピット主演で映画化された。(C)Getty Images

 MLBの歴史はイノベーションの歴史でもある。どこかで独創的なアイデアが生まれ、時代の流れとともに廃れるものもあれば、スタンダードになるものもある。『マネー・ボール』も、話題沸騰中の『The MVP Machine』も、広い視野で捉えれば、そのイノベーションの歴史の流れに位置付けられるのだ。

■新時代のキーワードは「発掘」ではなく「育成」

 今年、アメリカの野球のファンの間で、ある本が大きな話題を呼んだ。タイトルは『The MVP Machine』(以下『MVP』)。著者は「ベースボール・プロスペクタス(BP)」などセイバーメトリクス系ウェブサイトに寄稿し、独立リーグ球団GMの経験も持つベン・リンドバーグと、『ビッグデータ・ベースボール』においてパイレーツの復活を描いたトラビス・ソーチックの2人。彼らの経歴から察するとおり、『MVP』はここ数年で飛躍的に進歩した、データ分析に基づいた球界におけるさまざまな革新的試みをテーマにしている。「この本を読めば、野球に対する考え方は今までと同じでなくなる」(統計学者のネイト・シルバー)など、『マネー・ボール』以降では最も重要な野球の本と絶賛され、現在のアメリカ球界の潮流を知る上で必読の一冊と言える。
『MVP』で焦点が当てられているのは、事実上の主人公と言ってもいいトレバー・バウアー(インディアンス)をはじめ、ジャスティン・ターナーやリッチ・ヒル(ともにドジャース)ら、データを活用して飛躍的な成長を遂げた選手たち。レッドソックスのアシスタント投手コーチにして、投手育成部門の副部長を兼務するブライアン・バニスターのように、データを積極的に駆使する指導者、そしてドラスティックな改革を断行し、2017年にアストロズを世界一へ導いたジェフ・ルーノーGMといった人々で、読み進めていくうちに、どれほど速いスピードで「旧式の選手育成法がどんどん後方へ追いやられている」かが実感できる。

 単なるデータ野球の礼賛本というわけでもない。データの導入が実を結ばなかった例、スカウトやスコアラーたちの失職やフリー・エージェントの価値の減少といった、負の側面にも目が行き届いている。リンドバーグ自身が、データの力によってどこまで野球の技術を向上させられるか取り組んだ様子を描いた、ユーモラスな章もある。

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