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MLB

【エンジェルスの失われた10年:中編】最大の課題だった先発投手の補強はいつもおざなりだった<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.01.04

将来のエースと期待されながら開花しきれなかったヒーニー。今季からはドジャースの所属となるが……。(C)Getty Images

将来のエースと期待されながら開花しきれなかったヒーニー。今季からはドジャースの所属となるが……。(C)Getty Images

「大谷翔平選手はホームランを放ちました。なおエンジェルスは……」。今年、何度このフレーズを耳にしたことだろう。100年に一度の二刀流選手と球界最高のプレーヤーがいながら、なぜエンジェルスは勝てないのか。“負の歴史”は10年前に始まっていた――。

※スラッガー2021年11月号より転載(時系列は9月16日時点)

 15年開幕時点で、エンジェルスの先発ローテーションの未来はバラ色に見えた。前年の14年にマット・シューメイカー(16勝、新人王投票2位)と豪腕ギャレット・リチャーズ(13勝、リーグ5位の防御率2.61)がブレイク。さらに有望株左腕のアンドリュー・ヒーニーもトレードで加入した。もう一人の若手左腕タイラー・スキャッグスは14年夏にトミー・ジョン手術を受けていたが、才能豊かな4人の先発投手の存在に、明るい未来予想図を描いた関係者やファンは少なくなかった。

 だが、夢のローテーションは結局、実現しなかった。原因は怪我だ。リチャーズは15年も16勝と活躍したが、16年に右ヒジ靭帯を部分断裂。以降は故障者リスト入りを繰り返し、18年7月にトミー・ジョン手術を受けてそのまま退団した。シューメイカーは16年9月に打球が頭部を直撃して頭蓋骨を骨折。その後も右前腕を痛めるなどして、リチャーズと同じく18 年限りでチームを去った。

 スキャッグスとヒーニーも怪我を繰り返した末、先発4番手クラスに落ち着き、スキャッグスは19年7月にドラッグの過剰摂取で死去、ヒーニーも本格開花を果たせぬまま21年夏にヤンキースへ放出された。
 
 相次ぐ誤算で、先発陣はみるみるうちに弱体化した。時を同じくして、マイナー組織もMLB最低レベルにまで枯渇してしまった。特に、先発投手の育成にことごとく失敗。10~16年のドラフトで指名された投手のうち、エンジェルスで先発マウンドに立ったのはクリス・ロドリゲスだけで、しかも2試合しかない(オープナーを除く)。

 期待していた投手たちが揃って怪我に苦しみ、マイナーからの供給もまままならない状況。にもかかわらず、球団は打者には気前良く大型契約を連発する一方で、なぜか優先度が高かったはずの先発投手には一向に資金を投じようとしなかった。FAだけではなく、トレードでエース級を獲得しようと動くこともなかった(もっとも、これはファーム組織が枯渇していたため相手の満足いく交換要員を用意できなかったことが大きい)。

 代わりに球団が目を向けたのが、全盛期を過ぎた中堅/ベテランの先発投手たちだった。18年オフから20年オフにかけて、トレバー・ケイヒル、マット・ハービー、フリオ・テラーン、ホゼ・キンターナといった投手たちをいずれも1年1000万ドル前後で獲得したが、結果は惨憺たるものだった。4人は合計で246.2イニングを投じ、7勝21敗、防御率6.97。WARは-2.7。つまり、3Aレベルに毛が生えた程度のパフォーマンスと引き換えに、計3700万ドルを浪費したことになる。

 大物投手獲得に動いたこともあった。19年オフには、アストロズからFAとなったゲリット・コール争奪戦に参加。コールはアナハイム近郊で育ち、エンジェル・スタジアムのシーズンチケットホルダーでもあった。そのため、当初からエンジェルスを移籍先有力候補に挙げる声も少なくなったが、9年3億2400万ドルをオファーしたヤンキースに敗れた。
 

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