プロ野球

「クビになることも覚悟してるんで」――阪神・江越大賀の決意。“12球団で一番もったいない選手”はこのまま終わるのか

チャリコ遠藤

2022.03.17

厳しい競争の中で、強い覚悟を示している江越。彼は苦闘が続いてきたキャリアをどう捉えているのか。写真:産経新聞社

 やっぱり諦めきれない。どれだけ打ち砕かれても「江越大賀」という男の背中に見る"夢"の大きさはずっと変わらないのだろう。
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 それは甲子園の記者席にいれば、よく分かる。開幕が迫る3月のオープン戦。スタメン落ちをしても、試合終盤の代打でその名がコールされると"待ってました"とばかりにスタンドから大きな拍手がわき起こる。これほど長い間、「幻想」を抱かせてきた選手は近年いなかったかもしれない。

 低迷が続いても、忘れた頃に目の当たりにするプレーヤーとしての「凄み」。バットの芯で捉えた際に描かれる放物線、外野で見せる人間離れした跳躍力を生かしたダイビングキャッチ、野生動物を思わせる次の塁への疾走……。すべてがスペシャルだ。だからこそ、もどかしい。兼ね備えるスペックはいまだ「潜在」のままと言っていい。「次代のスター候補」の肩書きは、いつしか「12球団で一番もったいない選手」に変わってしまった。

 将来を嘱望されてきた江越が「危機感」を露わにしたのは、昨年12月の契約更改の場。若手というカテゴリーを外れ、中堅の年齢になってきたことをふまえて、言葉を吐き出す表情は一層、険しくなった。

「(チームにも)若い選手が多くて、外野手で言うと糸井さんの次が僕なので。(厳しい立場だという)自覚もありますし、(クビになることも)覚悟してるんで。ホントにダメだったら最後だと思うので。それぐらいの覚悟を持ってやりたい。(キャリアの中でも)今、一番持っています」

 昨年までの2年間は、それぞれ1軍で30試合以上に出場も、打率はともに.000と本塁打どころか、ヒットすら打てていない。貴重なベンチ要員として存在感を高めてはいるものの、近年は試合途中での守備固めや代走での出場が増加。それはスタメンの機会が限りなく低いのと同意だ。

 誰もが描いた未来図とは違うところにいる現実。レギュラーへの道を切り開けるのか、このままベンチウォーマーにとどまってしまうのか。今年は、「江越大賀」というロマンへの最後の挑戦になるのかもしれない。

 今春は、その覚悟を快音に変えている。

 2月27日のヤクルトとのオープン戦。2点を追う7回1死一塁で、育成右腕の丸山翔大が投じた内角への直球を振り抜き、左翼スタンドへオープン戦チーム1号の同点2ランを叩き込んだ。試合後に「ちょっと詰まった」と振り返る一発に、確かな手応えがうかがえた。
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江越の覚醒は、何よりも補強に