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異色のプロ野球人生を歩む「赤沼淳平」という男。コロナ禍による“空白の2年間”で沸いた渇望「チャンスですよ」

中島大輔

2022.03.22

米独立リーグで腕を磨いている赤沼。そのひたむきな視線の先にあるものとは。写真:西田泰輔

 メジャーリーガーを目指し、今季の開幕を誰より待ちわびる日本人投手がいる。

 赤沼淳平が舞台とするアメリカ独立リーグのフロンティアリーグは2020年、新型コロナウイルスの影響で中止された。不可抗力だから仕方ないと割り切り、翌年こそはと準備を進めたが、ビザを取得できずに渡米できなかった。今年27歳になる右腕は野球人生のピークとされるタイミングを前に、あまりにも酷な状況に置かれた。

「みんなから、『俺だったら、やめるわ。すごいな』って言われます」

 自身の不遇を笑った赤沼のもとに3月中旬、吉報が届いた。2022年シーズンを戦うために必要なビザが発行されるという知らせだった。

「実戦機会が1、2年抜けることは、そんなに不安に思っていなくて。この2年間で、明らかに球が強くなっていますしね」

"普通"の日本人投手ならうそぶいているように聞こえるが、赤沼の考え方は国内の主流派とは異なっている。

「たくさん投げても、うまくならないですよ。投げれば投げるほど、投げることに頭が行きすぎて、投げることでしか修正できなくないですか。でも、肘って無限ではないじゃないですか。だから、投げ過ぎたら壊れますよね」

 赤沼が投手として成長するうえで、重視するのがトレーニングだ。打者相手にほとんど投げなかったこの2年間は、自身のスケールアップ期間にあてた。

 セルフ・トミー・ジョン手術――。

 過去2年を冗談めかしてそう位置づけ、トレーニングに励んだ。2019年にフロンティアリーグで最速150キロを出したときは体重85キロだったが、現在は97キロ。見るからにたくましさを増した。赤沼が拠点としてきた広島のトレーニングジム「Mac’s Trainer Room」で捕手役を務める刎田康太朗トレーナーも、「球が強くなった」と証言する。

 同ジムを主宰する高島誠トレーナーは、オリックスの山岡泰輔やソフトバンクの松本裕樹らを自主トレで指導している。昨季のパ・リーグ本塁打王、"ラオウ"こと杉本裕太郎の飛躍にも力を貸した。赤沼はシーズンオフになるとNPBの選手たちと一緒にトレーニングを行ない、自身の現在地を測ってきた。

「2年間の成果はバッターに投げてみないとわからないですね。でも、ラオウさんから『山岡より出どころが見づらい』と言ってもらったので。結構いい方向に来ているということじゃないですか。出どころが見づらいことで有名な山岡より見づらいと言ってもらったから、やっぱり自分は見づらいんやと思って」

 2年間投げていないなかで、フロンティアリーグのシャンバーグ・ブーマーズと契約更新してもらえた理由のひとつに、「deception」への評価がある。球の出どころが見にくいのだ。

 もともと赤沼はオーソドックスな右投手だった。立命館高校に進学してから投手を始め、球速130キロ台だったが強豪校との試合でも好投し、「プロに行けると勘違いした」。
 
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元大リーガーからも「お前はプロに行けるから」