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MLB

異色のプロ野球人生を歩む「赤沼淳平」という男。コロナ禍による“空白の2年間”で沸いた渇望「チャンスですよ」

中島大輔

2022.03.22

長いイニングを投げられる赤沼の存在は、監督からも「やたら評価が高い」という。写真:西田泰輔

長いイニングを投げられる赤沼の存在は、監督からも「やたら評価が高い」という。写真:西田泰輔

 2019年途中にアメリカン・アソシエーションという独立リーグのゲーリー・サウスショア・レイルキャッツから、現所属のブーマーズに移籍。シーズン終盤はチームの主力格となり、さあこれから……というタイミングで世界がコロナ禍に包まれた。

「次の年はビザでダメで。ここまで長かった」

 底抜けに明るい赤沼は笑い飛ばすが、心中は計り知れない。ただし一つ言えるのは、異国で生き抜くために不可欠なタフネスを備えているということだ。

「アメリカの独立リーグで100マイル(約160キロ)投げるヤツをいっぱい見て、僕の身体では100マイル出えへんわと思ってトレーニングをたくさんしました」

 野球が再びできるときを見据え、一人で汗を流した。一緒に自主トレをするNPBの選手たちからは「日本のプロ野球でできる」と太鼓判を押されている。アメリカの大学でトレーニングを専攻し、プロ選手にアドバイスを送るほどだ。

 今季のブーマーズでは、先発で準備するように監督から伝えられている。

「やたら評価が高いんですよ。2年も投げてないのに(笑)。どこでも行けるし、ストライクを取れるから『work fast』、仕事が早いと言われています」

 フォーシームは平均145、6キロで動かし、カットボール、ツーシーム、チェンジアップ、スライダー、ナックルカーブなどを織り交ぜていく。たとえるなら、コーリー・クルーバー(ヤンキース)やジョー・マスグローブ(サンディエゴ・パドレス)みたいなタイプだと言う。

「彼らもスライダーとか真っすぐを動かして、どんどんカウントを埋めていく。仕事が早いですよね。今の時代、豪球タイプは後ろに回るので、イニングを食える僕らみたいなタイプが意外と重宝されるんですよ」

 フロンティアリーグはMLBと“距離が近い”点が特徴で、特にブーマーズは先発投手を中心に毎年5、6人がオファーを受けるという。赤沼が今季スターターを任されるのも、先にMLBへ旅立った投手がいるからだ。

「チャンスですよ。今年マイナーリーグに行って、メジャーに上がりたい。いろんな球団に行きたいですね。NPBもKBO(韓国)も経験したい。カリビアン・ワールドシリーズも出てみたい。メキシコも行ってみたい」

  空白の2年を経て、野球への渇望は強まるばかりだ。

「メキシコに行くチャンスは1回あったけど、さすがにプレーしなすぎてなくなりました。素材がいいだけではきついですね。マイナーに行くとか、メジャーに1回上がるとか、そういうキャリアがいるんですよ。世界には選手があふれているので。その中でも2年越しで契約してもらって、先発をやらせてもらうのは結構ありがたいことだと思っています」

 一般的な日本人選手たちと極端に異なるプロ野球人生を歩む男は、今後のキャリアをどのように切り開いていくのか。無名右腕がインパクトを残したとき、日本球界に新たな道が示されるはずだ。

 まずは、5月にフロンティアリーグで迎える開幕を楽しみに待ちたい。

取材・文●中島大輔
【著者プロフィール】
なかじまだいすけ。スポーツライター。1979年埼玉県生まれ。2005年から当時セルティックの中村俊輔を4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材している。『中南米野球はなぜ強いのか』(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞を受賞した。その他著書に『プロ野球 FA宣言の闇』(亜紀書房)、『野球消滅』(新潮新書)など。

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