高校野球

天理の長身エースが“たった2球種”で星稜に挑んだ意義。全国舞台で掴んだ自信「もっと打者を抑えられる投手に」

氏原英明

2022.03.23

星稜のエースであるマーガードと痺れる投げ合いを演じた南澤。彼が「キレが増している」と振り返ったボールとは。写真:滝川敏之

 真逆のピッチングスタイルを持つ右腕による投手戦だった。名門校対決となった選抜高校野球大会の第4日目に行なわれた第2試合は、延長戦の末に、星稜が5-4で天理を下した。

 星稜のエース、マーガード真偉輝キアンがスラッターを軸にしつつ、多彩な変化球で投球を組み立てたのに対し、天理のエース南澤佑音はたった2つの球種で勝負するスタイルで投げ合った。

 どちらも、超高校級というレベルではなかったものの、長く時間をかければモノになりそうな投手同士だけに、その投げ合いは印象に残った。

「カットボールが武器だとは聞いていて、対策は練っていたんですけども、打席に立ってみるとバットに当てさせてもらえないぐらいの素晴らしいボールだった。このまま完封で負けるのかなと思うほどでした。バットに当たらない試合は新チームからあまりなかったんですが、もう脱帽です」

 天理の中村良二監督がそう振り返ったのはマーガードの変化球のレベルの高さだ。53歳の指揮官は「カットボール」と表現したが、スライダーとカットを混ぜ合わせたようなボールの攻略に苦労した様だ。

 一方の南澤は、188センチの長身ながら腕をやや下げたフォームでぐいぐいと攻めた。球種はストレートとスライダーしかない。だが、それをインコースへ投じる攻めのスタイルで、星稜打線に的を絞らせなかった。

 試合は、まさに一進一退の攻防だった。4回表に犠牲フライで1点を先制した星稜が、8回に失策のランナーを3番の斉賀壱成の適時二塁打で返して1点を加点。だが、その裏、天理は先頭打者の四球からバント処理ミスで無死2、3塁の好機を掴むと9番の重桝春樹が放った適時二塁打で同点に追いついた。

 星稜は、ここで投手をマーガードから2年生右腕の武内涼太にスイッチ。彼もまた、フォークなど変化球を多彩に操る使い手らしく天理打線を翻弄。追加点を許さなかった。

 延長10回表に、星稜が犠牲フライで1点を勝ち越したが、その裏の天理は2死1、2塁から4番・内藤大翔の適時打で同点に。それでも、11回表に星稜が相手守備の暴投から2点を勝ち越すと、その後の天理の反撃は1点にとどまり、雌雄は決した。

 どちらも粘り強い打撃を見せたものの、要所で投手陣の活躍が目立った試合だった。だが、変化球を多投する星稜投手陣にうまく逃げ切られたというのが天理の印象だろう。

 中村監督はこう振り返っている。

「監督同士を比べても、ピッチャーや打線全てにおいて星稜さんの方が1枚上手だったなっていう試合でした。この大会はどこの学校も調整不足は否めないと思うんですけども、要所をしっかり抑えられた星稜さん。うちは終始追い付くのがやっと。何とかくっついて展開にしかできなかった。4対5の1点差とはいえ、力の差を感じるゲームでしたね」
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南澤の将来を見た潔い攻め方