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高校野球

天理の長身エースが“たった2球種”で星稜に挑んだ意義。全国舞台で掴んだ自信「もっと打者を抑えられる投手に」

氏原英明

2022.03.23

 指揮官がそう振り返るほどの差がありながら、接戦に持ち込めた背景にはエースの力投がある。昨春の選抜も経験していた南澤は、当時のエースだった達孝太(現日本ハム)が脇腹を痛めて準決勝の登板を回避した際に1イニングだけ登板を果たしているのだ。

 当時とは役回りも異なり、ピッチングフォームを変えての今大会の登板だったが、この日のピッチングで光ったのは、真っ向から立ち向かっていた点だ。

 とくに印象的だったのは10回表1死三塁のピンチの局面だ。結果的には犠牲フライを打たれてしまうのだが、8球連続してストレートを左打者の懐へと投げ込んだのだった。球速は130キロを超えた程度なのだが、その潔い挑み方に将来を見た。

 本人が言うには、球種はストレートとスライダー以外にシュートやチェンジアップ、フォークを持っているらしい。しかし、試合で使えるほどのレベルには達しておらず、今回はストレートとスライダーでの勝負を挑んだそうだ。

 南澤はこの日のピッチングの手応えをこう振り返っている。

「今日はストレートを中心にしましたけど、それでも押して行けたのは自信になりました。昨秋と比べてもキレが増しているのかなと。それは手応えになりました」

 変化球を多彩に操れた先輩の逹にしても、この日の対戦相手だったマーガードと比べても、球種やその精度において劣る部分は多い。しかし、未完成な段階で真っ向から勝負を挑んでいけた経験はこの先につながるだろう。

 かつて山口俊(現巨人)が、高校3年の春にストレートを磨くために、ストレートとカーブだけで大会を投げ切る覚悟を決めたことがあった。その当時と比べると、多彩な変化球を投げるのが、いわば一般的となった昨今の投手ではあるが、南澤が130キロのストレートでも向かっていった意義は、もっと先にあるような気がしてならない。

「今大会は打たせて取ることだけを目指してきましたけど、これからは三振を取れる。しっかり打者を抑えることができる投手になりたいです」

 南澤はそう語っている。達との距離も、今大会に出場している投手と比べても、まだまだ超えなければいけない壁は多い。しかし、それはあくまで高校3年春までの時点の話だ。この夏、そして、もっと先にどういう投手になっているかの第一歩を踏んだ舞台と言えるのではないか。

 188センチの長身右腕の成長ぶりが今後の楽しみになりそうだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

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