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大谷翔平らも悩ませる“誤審”。アメリカで進むロボ審判導入は必然か? 「審判の権威低下」の意見は本末転倒だ<SLUGGER>

豊浦彰太郞

2022.05.08

今季はストライク/ボールの判定を巡って物議を醸すシーンもある大谷。球界屈指の偉才を悩ませるジャッジを巡る問題は、根深いものとなっている。(C)Getty Images

 今季ここまでのMLBとNPBで共通するキーワードがある。それは「判定」であり「審判」だ。

 大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)の打席で首を傾げたくなるストライクを巡る判定は、再三日本のメディアでも紹介された。さらにボール判定に不服な態度を見せた佐々木朗希(千葉ロッテ)に対する白井一行球審の対応は、ワイドショーでも取り上げられるほどクローズアップされた。ジャッジの精度だけでなく、審判の権威や尊厳についても考えさせられた開幕後の1か月だった。

 アメリカでは審判の「ロボット化」は確実に進んでいる。球審がAI判定を参考として最終的なジャッジを下すというもので、完全な自動化ではないが、MLBは提携先の独立リーグでの実験を経て、2021年以降傘下マイナーリーグでも限定的ではあるが運用されている。

 もっとも、そう遠くないうちに実現するであろうMLBでの採用は、個人的には間違いないと思っている。しかし、導入したからといって全ての問題が解決するのだろうか?

 考察するには、二つの視点が必要になる。まずは、選手や球団側からのもの。そして、もうひとつはファンの視点、野球の将来にとっての是非だ。

 先に現場の視点から述べてみよう。
【動画】これがストライク? 大谷翔平に対する"不可解ジャッジ"をチェック

 私は2019年の夏にロボ審判をはじめとする数々の新ルール実験を行なう米アトランティック・リーグを取材した。二都市で3球団をカバーし、各球団GM、監督、コーチ、選手、OB、審判ら10数人にインタビューした。

 その際の意外な発見は、彼らが概ねロボ審判に好意的だった点だ。その理由の多くは「安定性」だった。ストライクゾーンの判定は、「正確」であることより「安定」していることが大切だというのだ。

 ある投手は、「ロボ審判のストライクゾーンは球場により微妙に異なる」と語った。なぜなら、球場は全てが異なっており、判定デバイスの取り付け位置は完璧に同じではないからだ。しかし、彼は「それ自体は大した問題ではない」という。それよりも、「ある微妙なコースがその日ストライクと判断されるなら、初回から最終回まで終始そうであることが重要」とも主張した。裏を返せば、人間の審判が判定している以上、現実はそうではないのである。

 ストライクゾーンを巡る投手と球審の駆け引きこそ妙味という意見もある。制球力に自信がある投手は、まず微妙なロケーションに寸分たがわず連続して投げ込む。すると、球審はその制球力に敬意を表しそこをストライクとコールする。名手はそうやってその日のストライクゾーンを広げていく、といった類の話だ。

 取材中、ある投手コーチにこの話を投げ掛けた。すると彼は、「ははっ(笑)。そんなこともあるのかもしれません。ですが、それよりも遥かに大切なのはコールが安定していることです」と一笑に付した。

 ストライク/ボール判定に限らず、ビデオリプレーやAI判断を用いる判定精度の向上は、公平性の担保という意味で選手や球団にとって良いことなのだろう。

 しかし、それで野球がより面白くなるかどうかは別問題だ。
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頑なに古くからの様式にこだわると――