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「重心が高く、リリースもばらつく――」“未完の大器”でしかなった花巻東時代。大谷翔平の見せていた覚醒前夜

THE DIGEST編集部

2023.01.01

まだ荒削りな面が否めなかった花巻東時代の大谷。それでもメジャーでの飛躍に繋がるポテンシャルの一端を覗かせていた。写真:産経新聞社

 2022年も様々な出来事が話題となった野球界。だが、日本人選手のなかで主役となったのは、やはり大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)だ。

 メジャー5年目でMVPを獲得した昨季以上の存在感を放ったと言っていい。投手としては渡米後最多となる15勝をマーク。野手としてもホームランと打点は前年を下回ったものの、打率.273、34本塁打、95打点と見事な成績を残した。

 規定投球回と規定打席を同時に到達したのは長いメジャーリーグの歴史でも史上初の快挙であり、2桁勝利と2桁本塁打の達成も1918年のベーブ・ルース(当時レッドソックス)以来2人目である。シーズンMVPこそア・リーグ記録となる62本塁打を放ったアーロン・ジャッジ(ヤンキース)に譲ったが、大谷が唯一無二の存在であると示したシーズンだったのは間違いないだろう。

 筆者は大谷のプレーを花巻東時代から見ている。しかし、当時から今のような将来像を想像できたかと問われると、その答えは"No"と断言できる。
 
 振り返ってみて、彼の存在を初めて認識したのは2010年の秋だ。菊池雄星(現・ブルージェイズ)が卒業したばかりの花巻東に「また凄い1年生ピッチャーが入ってきた」という評判を聞いたのが最初である。そして、実際に彼のプレーを見たのは、2年の夏に出場した甲子園での帝京戦だった。だが、この時の大谷は股関節の故障を抱えての投球を余儀なくされており、明らかに本調子ではなく、チームも7対8で敗れている。

 ストレートの最速は150キロをマークし、打っては3番打者として2点タイムリーを放って入るものの、期待が大きかった分、物足りなさが残ったのも事実である。当時の取材ノートを見返してみると、次のようなメモが残っていた。

「打撃も非凡。グリップが動かず、ボールを見る形が良い。142キロのストレートを一振りで見事にとらえてセカンドライナー。打球の速さも申し分ない。(中略)大型でも身のこなしが軽く、投球フォームにもっさりしたところがない。故障の影響もあってか重心が明らかに高く、リリースもばらつく。それでも指にかかった時のストレートは勢い十分。変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップがあるが、全て変化が早く、精度も低い。(中略)フィールディングも上手い。見るからに本調子ではないこともあって評価が難しいが、大器であることは疑いの余地はない」

 投打で称賛の言葉はあるものの、気になる点が多いというのもよく分かる内容だ。打撃についても評価する言葉はあるにはあるが、この時はあくまでも「バッティングも非凡な投手」という印象でしかなく、メジャーでホームラン王争いをするような打者になるとは全く思っていなかった。
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