高校野球

もう“鉄拳制裁”は認められず、指導者が評価される時代に。「変化」が起きる高校球界で監督に求められる理想の姿とは?

西尾典文

2023.02.12

昨夏の甲子園で東北勢初の全国制覇を成し遂げた仙台育英を率いる須江監督。彼は指導者に求められる資質の変化をどう考えているのか。(C)THE DIGEST

 2月10日、日大三高で夏の甲子園2度の優勝を誇る小倉全由監督の退任が発表された。2015年に渡辺元智監督(横浜)、2018年に高嶋仁監督(智弁和歌山)、2021年に前田三夫監督(帝京)が相次いで監督生活を引退し、高校野球界にも着実に世代交代の波が押し寄せていると感じる。

 指導者の世代交代も進む高校球界では、今年1月に昨秋の東京都大会を制した東海大菅生の若林弘泰監督(当時)の部員に対する暴力が発覚。最終的に今春のセンバツ大会を前に解任されるという事態となった。

 一昔前までは"鉄拳制裁"という言葉が象徴するように、指導者による体罰や暴言は当たり前という風潮もあった。だが、現在ではそういった指導は完全に認められなくなっている。そして時代の変化とともに、指導者に求められる資質も確実に変わっている。

 これまでに結果を残してきた監督に共通しているのは、強力なリーダーシップである。横浜高校の小倉清一郎元部長のような名参謀と呼べる存在がいた高校もあったが、基本的に監督こそがチームの顔。スカウティング、技術指導、体力強化、試合における采配など、全ての責任を担っているケースが多かった。
 
 帝京高校の前田監督は就任直後のチーム力がない時代には、練習の合間を縫って有望な中学生の元へ足繫く通い、智弁和歌山の高嶋監督も選手のために1日中ノックを打っていたというエピソードを聞いたことがある。そうして監督の求める野球を直に教わった選手がそれを体現し、競い合うのが高校野球という考えは、2000年頃まで続いていたわけである。

 しかし、現在の高校野球で結果を残している監督に話を聞くと、指導者のイメージはかなり変化している印象を受ける。昨夏に東北勢として初の甲子園優勝を達成した須江航監督から筆者が聞いたのは、「強烈なカリスマ性、リーダーシップを持った指導者がチームを引っ張る時代ではない」というものだった。

 実際、仙台育英はメンバーを選考する際にもあらゆる指標を設けて、個々のレベルアップを図っている。選手にとっては基準が明確なため、監督へのアピールではなく、個人能力向上を目指せるのだ。これが最終的にチーム力の向上にも繋がるのだ。

 また、仙台育英にとって県内で最大のライバルである東北高校に昨年8月に就任した佐藤洋監督の指導法も最近では大きな話題となっている。
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