東京を代表する強豪校の関東一高、日大三高を率いて甲子園通算37勝、夏の選手権優勝2回という輝かしい実績を残した名将・小倉全由監督の退任が、今日9日、明らかになった。誰からも慕われる気さくな人柄に、高校野球ファンだけでなく、マスコミにも心酔する者が多かった。
ここでは、20年以上にわたって取材してきたスポーツライターが、去りゆく名将の素顔を書き記す。
―――◆―――◆―――
着信音が鳴ったのは2月8日の朝早くだった。
『小倉全由(日大三高・監督)』。スマホの画面に出て来た名前を見て、「その件であってほしくない」という悪い予感が胸によぎった。
「おはようございます」
いつも通りの、元気いっぱいの声だった。ご縁があり、これまで日大三高や小倉監督の記事を何度か執筆している。そのたび小倉監督は、「ウチのチームを良く書いてくれて、ありがとうございました」と連絡をくれた。最近も私のTwitterでの些細な書き込みを目にし、「あれは嬉しかったですよ」と言ってくれた。そんな雑談の後、「じつはですね」と小倉監督は本題を切り出した。
「自分、この3月いっぱいで監督を退くことになりました」
やはりそうだった。
それは昨夏以降ずっと、「いつかは来ること」と覚悟しながらも、「できればまだまだ先であってあってほしい」と願い続けていた知らせだった。
昨年で65歳を迎え、この春で教員職を定年となる。監督としての去就が注目されていたが、今年度のチームも指揮を執り、秋の東京都大会でセンバツ出場にあと1勝まで勝ち進んでいる。成長力のあるチームで、夏はまたチャンスがあるだろう。歳相応に白髪が目立つようになったが、ユニフォーム姿はまだまだ若々しく、高校野球関係者や学内にも監督業継続を望む声は多かった。もちろん私もその一人だ。
私は取材者の立場でありながら、小倉監督を尊敬する思いがとても強いため、こうして電話をいただくと、座っていても無意識のうちに立ち上がってしまう。絞り出すように「監督、言葉がありません」と言い、黙って姿勢を正して聞くことしかできなかった。
しかし思いのほか、小倉監督の口調は淡々としていた。「明日、部員たちを集めて全員に話をするんです」と言う。蛇足とは思いつつも、「お気持ちが、変わることはありませんか?」と聞いてみたが、「いやー……」と苦笑された。
「なにか最近は、ノックを打っていても、以前のように良い打球が飛ばせなくなっていたんですよ。やっぱり歳を取っちゃいました。これじゃ選手たちに申し訳がねえなぁって、ずっと思っていて……。
去年の夏で、自分ではもうキリにするつもりだったんです。でも、いろんなしがらみもあってなかなか発表できなくて。そしたら最後と思っていた夏に、選手たちが甲子園に連れて行ってくれましてね。いや、今だから言えるけど、東海大菅生は強かったですよ。正直、勝てるとは思っていなかった。それを倒して甲子園に行っちゃうんだから。本当に自分は幸せモンだな。選手たちに最高の贈り物をもらって、これでもう監督で思い残すことは何もないなと思いました」
ここでは、20年以上にわたって取材してきたスポーツライターが、去りゆく名将の素顔を書き記す。
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着信音が鳴ったのは2月8日の朝早くだった。
『小倉全由(日大三高・監督)』。スマホの画面に出て来た名前を見て、「その件であってほしくない」という悪い予感が胸によぎった。
「おはようございます」
いつも通りの、元気いっぱいの声だった。ご縁があり、これまで日大三高や小倉監督の記事を何度か執筆している。そのたび小倉監督は、「ウチのチームを良く書いてくれて、ありがとうございました」と連絡をくれた。最近も私のTwitterでの些細な書き込みを目にし、「あれは嬉しかったですよ」と言ってくれた。そんな雑談の後、「じつはですね」と小倉監督は本題を切り出した。
「自分、この3月いっぱいで監督を退くことになりました」
やはりそうだった。
それは昨夏以降ずっと、「いつかは来ること」と覚悟しながらも、「できればまだまだ先であってあってほしい」と願い続けていた知らせだった。
昨年で65歳を迎え、この春で教員職を定年となる。監督としての去就が注目されていたが、今年度のチームも指揮を執り、秋の東京都大会でセンバツ出場にあと1勝まで勝ち進んでいる。成長力のあるチームで、夏はまたチャンスがあるだろう。歳相応に白髪が目立つようになったが、ユニフォーム姿はまだまだ若々しく、高校野球関係者や学内にも監督業継続を望む声は多かった。もちろん私もその一人だ。
私は取材者の立場でありながら、小倉監督を尊敬する思いがとても強いため、こうして電話をいただくと、座っていても無意識のうちに立ち上がってしまう。絞り出すように「監督、言葉がありません」と言い、黙って姿勢を正して聞くことしかできなかった。
しかし思いのほか、小倉監督の口調は淡々としていた。「明日、部員たちを集めて全員に話をするんです」と言う。蛇足とは思いつつも、「お気持ちが、変わることはありませんか?」と聞いてみたが、「いやー……」と苦笑された。
「なにか最近は、ノックを打っていても、以前のように良い打球が飛ばせなくなっていたんですよ。やっぱり歳を取っちゃいました。これじゃ選手たちに申し訳がねえなぁって、ずっと思っていて……。
去年の夏で、自分ではもうキリにするつもりだったんです。でも、いろんなしがらみもあってなかなか発表できなくて。そしたら最後と思っていた夏に、選手たちが甲子園に連れて行ってくれましてね。いや、今だから言えるけど、東海大菅生は強かったですよ。正直、勝てるとは思っていなかった。それを倒して甲子園に行っちゃうんだから。本当に自分は幸せモンだな。選手たちに最高の贈り物をもらって、これでもう監督で思い残すことは何もないなと思いました」
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