侍ジャパン

「俺はちょっと立てる」――昼食中に同僚が放った一言に光。宇田川優希が“一人のブルペン”で掴んだWBC球の克服術

THE DIGEST編集部

2023.02.24

懸命にブルペンで投げ込み、試行錯誤を繰り返した宇田川。そのなかで彼はWBCを克服する方法を見出していた。写真:梅月智史

 2月17日から始動した宮崎での侍ジャパン合宿。ワールド・ベースボール・クラシックの開幕を控えたなかで、とりわけ投手たちにとっての共通の"課題"と言えたのが、WBC公式球への適応だ。

 NPBの公式球に比べてヤマ(ボールの縫い目)が低く、スベスベとした質感のため、ボールが抜けやすいというWBC球は、感覚を重要視する投手たちにとって小さくない障害となった。

 今合宿でも選手たちから不安の声が漏れ聞こえてきた。「問題ない」という投手もいないわけではなかったが、大半が眉をひそめながら「嫌がるところはある」(松井裕樹=楽天)と抵抗感を口にする者が大半を占めた。

 しかしながら本番はすぐそこまで迫っているため、準備は急ピッチで進めなければならない。投手たちの対応は様々だった。連日ブルペンに入って投げ込んで、打開策を模索する者もいれば、NPBで使用されているロジンに活路を見出す者もいた。

 そうしたなかで、コーチや同僚たちとの何気ない会話から克服する術を見出した投手がいる。宇田川優希(オリックス)だ。

 22日にギャラリーこそいたが、両隣には誰もないブルペンに入った宇田川は、「(今日は)楽しいと思えた。どんどん良いときの感じに戻せている」と自信を深めたように30球を投げ込んだ。
 
 宇田川も決して最初からWBC球に慣れていたわけではなかった。キャッチボールの段階から制球に苦しみ、普段の力強く、伸びのあるボールは投げられていなかった。原因は指先がボールに対して「負けていた」からだった。

 どうすれば剛速球を投げ込めるのか――。試行錯誤の中、改善のキッカケとなったのは、昼食中に耳にした一言だった。厚澤和幸ブルペン担当コーチの放った「俺もWBCのボール投げたけど、指先が負けちゃうね」という言葉に同調した栗林良吏(広島)が言った。

「俺はちょっと(指を)立ててる」

 これで宇田川は「やっぱり、みんな意識的にやっている」と気づかされ、早速キャッチボールで「負けない投げ方」を試行。「そういうことか」と好感触を得ると、先述のブルペンで納得のいく力強いストレートを投げられるようになった。そして自然と決め球のフォークのキレも増した。

 25日には、ソフトバンクとの壮行試合での登板が予定されている。本格的な実戦を前に、ようやく感覚を掴んだ宇田川は、こう意気込んでいる。

「真っすぐが弱かったら、フォークが活かされない。まずは真っすぐをしっかりと強く投げたい」

 過去大会を振り返っても多くの投手が苦戦を余儀なくされてきたWBC球。その攻略のための活路を見出した宇田川。24歳の若武者の投球が、ますます楽しみになった。

取材・文●羽澄凜太郎

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