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「会話の中にも上達のカギがある」――ダルビッシュ有の言語化能力が侍ジャパンにもたらした“ケミストリー”<SLUGGER>

氏原英明

2023.02.28

投手としての実力だけでなく、コミュ力でも多大な影響を侍ジャパンに与えたダルビッシュ。真の一流選手とはこういうものなのだろうか。写真:梅月智史

 これほどまでに充実したキャンプになるとは想像もしなかった。

「今回はダルビッシュ(有/パドレス)投手が(メジャー組で参加したのは)一人でしたけど、明らかに化学変化が起こっている。チームのピッチャーやバッターが会話しながら、すごくチームを進化させている」

 そう振り返ったのは栗山英樹監督だった。

 10日間取材をして何より感じたのは、選手たちが発する言葉の一つ一つに重みが増していったことだった。そして、それらは彼らの行動にもつながった。
 
 25日の強化試合で1回を無失点に抑えた伊藤大海(日本ハム)が興味深い話をしていた。
 
「やっぱ言葉って責任があると思うんです。だから、会話の中にも上達のカギがあるのかなと、それはダルビッシュさんを見ていて感じました」
 
 これほどまでにコミュニケーション力の高かったグループはないのではないか。ダルビッシュを起点にして、チームメイト同士のやりとり、コーチとの話し合いから、メディア対応に至るまで、侍ジャパンのメンバーたちは思考しながら言葉を選び、成長の糧にしているようだった。

 ダルビッシュの合宿参加が、今年のメンバーに言語能力に厚みを加えたのだ。
 
 若い選手からしてみれば「神のような存在」だった。だが、ダルビッシュは彼らに友人のように接した。合宿の当初から積極的に声を掛け、質問をして選手たちの考えを聞くことに奔走し、その行動を理解しようとした。
  
「なぜ、その練習をやっているの?」

「どういう意図があるの?」

 それが、日本で活躍するトップ選手たちの口を饒舌にした。
 
 上から目線ではないスーパースターからの優しい問いかけに、適当に答えるような人間はいない。選手たちは自身の取り組みについて頭で整理し、言葉にした。
 
 佐々木朗希(ロッテ)はダルビッシュとのやり取りをこう振り返っている。
 
「ダルビッシュさんは年下の選手にも同じ目線で話してくれています。そこで僕の意見を言ってまたそれに対する意見をもらったりだとかをするので、自分がいつもどういうふうに考えていたのかが分かる。ダルビッシュさんと話をしていてそれを思いました」
 
 普段は自分なりの意図を持って行動していることでも、言葉にして伝えるとなると頭を整理しなければいけない。それまでの「何となく」は明確に整理されていくのだ。

 代表最年少の高橋宏斗(中日)も自身の変化を口にする。

 「適当なことは話せないです。自分自身でやってきたことをしっかりと言葉にすることでもう一回、自分自身に言い聞かせるじゃないけど、そういうことには繋がるのでいい時間を過ごせたと思います」
 
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