侍ジャパン

奇抜な巨大オブジェに21禁のナイトクラブ、バックネット裏に水槽…WBC決勝の地はかつて「メジャーで最もぶっ飛んだ球場」だった<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2023.03.20

奇抜な巨大オブジェ(右上)にバックネット裏の水槽(左下)、ナイトクラブの美女たち(右下)……。マーリンズ・パークと呼ばれていた頃は独特の魅力にあふれていた。写真:THE DIGEST写真部

 WBCの準決勝と決勝が行なわれるマイアミの「ローンデポ・パーク」。2012年の開場当初は「マーリンズ・パーク」と呼ばれていたこの球場は、かつては奇抜なギミックに満ちあふれ、何とも不思議な魅力をたたえていた。

 球場はマイアミのダウンタウンから少し離れた「リトル・ハバナ」と呼ばれるエリアにある。その名の通り、キューバ系移民が数多く住む地区で、いかにも労働者階級の街といった趣の街並みに、まるで不時着した宇宙船のように鎮座する白い巨大な物体。それがマーリンズ・パークだった。周囲から明らかに浮いている出で立ちはそのまま、この球場の立ち位置とも重なるように思えてくる。

 1990年代から20年以上、アメリカでは空前のボールパーク建設ブームが起こった。そのほとんどは、昔懐かしいノスタルジックな雰囲気を全面に押し出した「新古典主義」と呼ばれる建築スタイルだったが、マーリンズ・パークは違った。白を基調とした現代的な外観には、ノスタルジアの欠片もなかった。

 実は、この球場はマーリンズの前オーナーであるジェフリー・ローリアの「作品」と言っても過言ではない。球界きってのどケチオーナーとして悪名を馳せた彼は、アートディーラーとして財を成した人物。その彼の「趣味」が随所に反映された結果、唯一無二の球場が完成したのだ。

 開場当時、とりわけ話題を呼んだのが、左中間にそびえ立っていた高さ20mの巨大オブジェだった。派手派手しいデザインのそのオブジェには、ヤシの木やイルカ、カモメ、海、フラミンゴといった常夏の街ならではの意匠が施されていた。そのあまりのどぎつさ(?)を「ビートルズの『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のアルバムジャケットのようだ」と評した人がいたが、言い得て妙だと思う。
 
 バックネット裏のフェンスには、「ミニ水族館」と称して巨大な水槽が埋め込まれ、約50匹の熱帯魚が悠々と泳いでいた。ボールが直撃しても壊れないよう、強化ガラスで防御していたが、動物保護運動家からは抗議の声が出ていたという(そりゃそうだ)。

 さらに、レフトポール際には「クリーブランダー」というナイトクラブの支店がオープン。中に一歩足を踏み入れると、DJが試合中でもお構いなしに大音量の音楽を流し、リオのカーニバルのようなセクシーな衣装に身を包んだ美女たちがフロアを練り歩いていた。21歳以下は入場不可という、まさに「大人の世界」。もはや野球観戦に来ているのかすら分からなくなる異空間だった。

 このように、良くも悪くも他の球場とは一線を画していたマーリンズ・パーク。だが、これらのギミックは残念ながら観客動員増にはあまりつながらなかった。ローリア得意のファイヤーセール(主力の一斉放出のこと)や、若きエース右腕ホゼ・フェルナンデスの不慮の死もあり、いつしか球場には閑古鳥が鳴くようになった。

 ローリアは17年に球団を身売り。それを機に「普通の」球場へ戻そうという動きが起こり、巨大オブジェもバックネット裏の水槽もナイトクラブもすべてなくなってしまった(オブジェは球場外に移設)。その代わり、この球場ならではの独特な魅力が薄れてしまった感も否めない。

 昨年からはネーミング・ライツで住宅ローン会社の名前が冠され、「マーリンズ・パーク」という呼び名もなくなってしまった。今や、開場当時から残っているのは、500体以上の人形が飾られたボブルヘッド・ミュージアムくらいだろうか。

 それでも、今回のWBCで数多くのファンが詰めかけ、球場は久々に熱気を取り戻した。侍ジャパンが優勝することになれば、「ローンデポ・パーク」という名前も、日本のファンの間で永遠に記憶されることになるだろう。

構成●SLUGGER編集部