プロ野球

いまだプロ初勝利はお預けもルーキーとは思えぬマウンドさばき… 楽天ドラ1・荘司康誠は、なぜクレバーなスタイルを確立できたのか?<SLUGGER>

氏原英明

2023.05.17

楽天のドラフト1位ルーキー荘司。プロ初勝利はいまだ掴めていないが、好投を続けている。写真:産経新聞社

「プロの洗礼」というと常套句すぎるか。

 楽天のドラフト1位ルーキー荘司康誠が、ここ2試合続けて勝利投手の権利を得ながらも、いまだプロ初勝利がお預けとなっている。
 
 4月30日の西武戦では6対2と大量援護をもらい、6回からリリーバーにバトンタッチしたが、西武打線が後半粘って9回に同点とされ、白星は幻に。中6日空けて登板した5月7日の日本ハム戦でも6回を投げ切り、この時点で2対1とリードしていたが、終盤に逆転されて、またも白星はつかなかった。

「松井(裕樹)さんからはごめんなと言われました」

 4月30日の試合後、先輩とのやりとりを荘司は残念そうな顔を見せずに淡々と振り返った。記者から「1勝を掴む難しさを感じたのではないか」という質問が飛んだからだ。「もともと、簡単に勝てるとは思っていない」とサラッと答えたのは強がりではない。プロでの1勝よりも、いかに将来エースへと育つか。それだけの期待を背負っているからだ。

 それほど荘司のピッチングには魅力があった。

 ストレートの最速は150キロを超えたあたりで推移し、長身から投げ下ろすボールには角度がある。変化球はカットボールとスプリット、カーブを投げ分ける。

 荘司の持ち味は、一つの球種に頼りすぎないところだ。すべての球種でカウントを整える。どれも勝負球にもできる。

 だからこそ、試合をうまく組み立てられるのだ。

 30日の西武戦ではストレートは切れていたが、スプリットはそれほどもないと判断すると、カーブを効果的に使った。

「今日はカーブがいいなと思ったので切り替えましたね」

 4点を先制した直後の4回裏には、中村剛也に本塁打を浴びるなど2点を返されたが、そのあとの無死三塁のピンチから2者連続三振。最後の金子侑司はカーブを3つ続けてライトフライに打ち取った。

 投球次第では試合が大きく動くこともあり得ただけに、この場面のピッチングは圧巻だった。5回にも1死満塁のピンチを招いたが、前の打席でタイムリーを浴びていた呉念庭を、やはりカーブで三振に斬って取る見事なピッチングを見せた。

 ルーキーとは思えない、「切り替えのできるピッチング」には、荘司の野球観の高さを感じずにはいられない。

 7日の日本ハム戦では6回1失点の好投。異彩を放ったのは無死三塁の5回裏だった。1点は仕方ないという場面、しかも打席にいた9番・江越大賀の猛烈な粘りにあって15球を要したが、荘司は根負けせずに三振に打ち取った。

 もし四球を出していたら、そのまま上位打線につながる場面。大量失点も免れなかっただけに、この三振は大きかった。マウンドで何をすべきかをしっかり理解している、クレバーなスタイルの投手と言えるだろう。
 
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