ライマン・ボストックやニック・エイデンハートの悲劇と異なり、2019年のタイラー・スキャッグスの死は不幸な出来事ではあったにせよ、彼自身にも責任がある。そして、その影響は今なおエンジェルスに暗い影を投げかけている。

　ロサンゼルス西部のウッドランドに生まれたスキャッグスは、準地元のエンジェルスに2011年のドラフト１巡目（全体40位）で入団。この年のエンジェルスは補完指名を含めて５つの１巡目指名権を持っていて、25位のマイク・トラウトもその一人だった。ただし、デビューを飾ったのは入団１年後にトレードされたダイヤモンドバックス。ここで２年投げたのち、再びトレードでエンジェルスに戻ってくる。14年はローテーションの一角として５勝を挙げたが、７月にトミー・ジョン手術を受けて１年半グラウンドを離れた。

　大谷翔平の加入でチームが活気づいていた18年は、スキャッグスにとっても自己最高のシーズンとなった。24先発して８勝、129奪三振のいずれもキャリアハイ。同年の大晦日にはガールフレンドのカーリと結婚するなど、人生の絶頂期にあった。 　翌19年も６月末まで15試合で７勝と、快調に白星を積み重ねていた。しかし６月30日夜、いつものようにカーリが送ったおやすみのテキストメッセージには返信がなかった。翌朝、遠征先のテキサスのホテルの部屋で動かなくなっているスキャッグスが発見される。午後には正式に死亡が宣告された。死因は、嘔吐物が喉に詰まったことによる窒息。まだ27歳の若さであった。

　チームメイトはみな悲しみに沈んだ。同期のトラウトは「僕たちが感じているこの悲しみを表現する言葉が見つからない」と人目もはばからず涙を流し、大谷も球団を通じて「自分がエンジェルスに加入して以来、親密なチームメイトだった。どれほどの深い悲しみか言葉で表現できない」と声明を発した。

　スキャッグスは明るい性格で、誰からも好かれていた。大親友でもあったアンドリュー・ヒーニー（現レンジャーズ）は最近、こんな風に回想している。「葬儀で僕は『彼のことを親友と呼べる自分を幸運だと思っている』と言った。でも、こう付け加えた。『同じように思っている人がおそらく50人はいるでしょう』とね。彼には人と人を結びつける才能があった」