プロ野球

「投手は自分目線ですごく難しく考えている」元沢村賞投手・金子千尋は今も“思考力”のアップデートを続ける【前編】<SLUGGER>

藤原彬

2023.08.07

レンジャーズへのコーチ留学では、スプリッターの投げ方を盛んに聞かれたという。写真提供:北海道日本ハムファイターズ

 昨年限りで現役生活に別れを告げた北海道日本ハムファイターズの金子千尋特命コーチが、7月1日に行われた引退セレモニーと試合後のイベントで登板した。今年開業したエスコンフィールドのマウンドに立つ姿は見られないはずだったが、現役時代と変わらない多彩なボールを繰り出して観衆を大いに沸かせた。

 現在は後進の指導にあたり、MLBテキサス・レンジャーズで留学も重ねている。MVPや沢村賞も手繰り寄せた"思考力"は今、ベースボールの母国・アメリカからどのような糧を得ているのだろうか。

――まずはレンジャーズでの活動について教えてください。

 球団からの細かい要望はなく、思うがままに体験して何かを感じ取ってきてほしいと言われています。2月のスプリング・トレーニングではメジャーの選手も見ましたが、5月からの渡米時はマイナーの3A、2A、A級をそれぞれ巡回しました。特に変わったことはしていません。レンジャーズは日本人選手も多く所属したチームで、ファイターズとは業務提携をしているので、日本の野球に対する理解は他のチームより深いかもしれません。

――レンジャーズ傘下の倉野信次投手育成コーチ(元ソフトバンク)は「スプリッターの投げ方をよく聞かれる」と言っていました。

 投げ方のアドバイスはよく求められます。アメリカにはフォークやスプリッターを積極的に投げる文化がなかったので、教えられる人が少ない。日本では空振りを奪う変化球として投げない投手はいないぐらいの球種で、僕も投げていたので教えています。ピッチング担当のスタッフと「この選手がスプリッターを覚えれば面白いのでは?」と話をしながら。
 
 うまくいっているかどうか結果はまだ分からないですが、僕が教えていることが徐々に広まっているようで、どのマイナーチームへ行っても大体聞かれます。アメリカではここ数年、徐々にスプリッターを投げる選手が増えています。

――実際に今季はスプリッターの投球割合が増加しているというデータがあります。

 おそらく、アメリカでは初めに覚える変化球がチェンジアップです。日本人とは投げ方が違うし、回転軸も違うためボールの回転が変わるので、より落ちます。落ちる球として多用されていましたが、日本人選手がメジャーやWBCでもスプリッターでうまく空振りを奪えているので、あちらでも徐々に広がっている。

 あと、アメリカではスプリッターを投げると肩や、どちらかと言えばヒジに負担がかかるイメージがあったと思います。もしかすると、そうではないという認識に少しずつ変わっているかもしれません。僕はストレートと腕の使い方が違うスライダーやカッターの方が負担は大きいと思っていますが。
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アメリカの方が早くデータを取れる。選手も数字への理解が早い