高校野球

決勝点は5番のスクイズ!真っ正直に戦った履正社と好対照だった「終盤の鬼」仙台育英の執念【氏原英明が見た甲子園:第11日】<SLUGGER>

氏原英明

2023.08.17

仙台育英・須江監督は8回のスクイズを「ここでやらなきゃ一生後悔すると思った」と振り返った。写真:THE DIGEST写真部

 力と力のぶつかり合いになる――強豪同士の対決となった第1試合の仙台育英対履正社。そんな戦前の予想は、ある意味で正しく、ある意味では正しくなかった。

「ここでやらなきゃ一生後悔すると思った。迷いはなかったです」

 仙台育英・須江航監督が振り返ったのは、3対3の同点で迎えた8回表の場面だ。

 先頭の3番・湯浅桜翼がライトへの二塁打で出塁。4番の齋藤陽が犠打を決めた後のことだった。初球ボールからの2球目、5番の尾形樹人が絶妙なスクイズバントを決めたのだった。

 試合終盤での小技を駆使しての1点。試合はこれで決まったといって良かった。

 高校野球らしいといえば高校野球らしいが、両者がドラフト候補を多数揃える強豪校だっただけに、あっけない決着でもあった。

 試合は序盤から両チームの「個」がぶつかり合った。

 仙台育英は湯田統真と高橋稀、履正社は増田壮、福田幸之助と、どちらも高校球界屈指の好投手をマウンドに送った。

「序盤の増田投手のピッチングを見て、今日は打ち合いになることはないなと思いました」と須江監督は話していたように、いかに少ないチャンスで得点できるか、粘れるかが試合の焦点だった。

 先制したのは仙台育英だった。2回表、2死から齋藤敏哉が四球で出塁すると、7番の鈴木拓斗が左翼スタンドに豪快な一発。履正社の先発・増田の変化球が甘く入ったところを見逃さなかった。
 履正社もすぐ反撃する。その裏、四球を皮切りに1死一、二塁のチャンスを作ると、7番・小川輝のセンター前タイムリーで1点。続く只石琉人のライト前安打の処理を仙台育英守備がもたいついている間に一塁走者が長躯ホームイン。同点に追いついたのだった。
 
 その後は両者1点ずつを取り合った後、膠着状態のまま後半戦へと突入する。

 仙台育英ベンチが先に動く。6回から先発の湯田に変えてエースの高橋稀を投入。「信頼感が一番ある」と須江監督は守備にミスのあった一塁手の斎藤までベンチに下げ、1点勝負を見据えて締めにかかったのだった。7回はともにチャンスをつかむも得点できず、試合は8回の攻防へと向かった。

 結果、8回のスクイズが試合を分けるのだが、明暗を分けたのは試合開始から両校とも「個」の能力を打ち出してきた中、仙台育英は後半になって戦い方を変えてきたことだった。

 再度、8回表の仙台育英の攻撃を振り返ってみる。先頭の3番・湯浅が右翼二塁打で出塁したことは先ほども言及した。この時点で、仙台育英の点の取り方は決まっていたと言っていい。

 尾形が話す。

「(僕の打席で)スクイズだなっていうのは、湯浅が二塁打で出塁した時点で閃きました。どうやってスクイズのカウントを作ろうかと考えて打席に入っていました。7、8、9回でゲームを支配するということを夏前からチームみんなで練習してきて『終盤の鬼』になるゲームをやってきていたんで、最後はみんなが理解していたと思う。みんなで勝ち取った1点」
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「思ったより早い段階で仕掛けてきたんで意表を突かれました」