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高校野球

慶應が107年ぶり日本一奪還! 常識を覆した“独特スタイル”「エンジョイ・ベースボール」がハマった理由【甲子園】

西尾典文

2023.08.27

107年ぶり日本一に輝き、感情を爆発させた慶應ナイン。写真:産経新聞社

107年ぶり日本一に輝き、感情を爆発させた慶應ナイン。写真:産経新聞社

 この夏の全国高校野球選手権で実に107年ぶりとなる優勝を果たした慶應(神奈川)。ちなみに前回の優勝は第2回大会で東京代表としての出場であり、甲子園球場もまだできていない。当然史上最長ブランクでの優勝であり、決勝戦のスタンドを埋め尽くしたOB、関係者の数も話題となった。
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 そんな慶應でもうひとつ大きな話題となっているのがそのスタイルだ。スタイルといっても単純な髪型などの話ではない。「エンジョイ・ベースボール」というスローガンのもと、グラウンド上で選手たちはエラーやミスがあっても悲壮感を感じさせることなく、終始のびのびとしたプレーを見せていたのだ。

 グラウンドでは歯を見せず、感情を押し殺してプレーするようなことが多かった高校野球のイメージとはかけ離れており、その点も強いインパクトを残したと言えるだろう。

 しかし楽しそうにプレーしているだけで勝てるほど野球、スポーツは簡単なものではない。決勝戦で敗れた仙台育英の須江航監督も試合後のインタビューで慶應については「技術も高く、フィジカル面もしっかりしていた」と話している。当然それだけの練習、トレーニングを積んでいることは間違いなく、普段の練習では選手同士で厳しい声も飛び交っているという。

 ただ、これまでイメージされてきた高校野球と異なるのは監督やコーチの指示に従ってその通りに選手が動くのではなく、選手が主体的に取り組んでいるという点だ。チームの運営には慶應大の学生コーチがかかわっており、森林貴彦監督がトップダウンで練習方法などを決めることはないという。

「エンジョイ・ベースボール」という言葉が独り歩きしているが、慶應の野球部のホームページには部訓のコーナーに“部訓”、“心得”、“コーチ心得”の3つについてかなりの長文で細かく目指す姿が書かれており、その中にも『自分の評価は自分でしろ。人の目、人の評価を気にしてばかりいるとパイプが詰まる』という言葉があるように、自らが主体となることを強く求めているのだ。

 ではこういった方針でのチーム運営によって、夏の甲子園優勝という最高の結果をもたらした理由はどういったところにあるのだろうか。
 
 ひとつは以前と比べて、パフォーマンス向上のための科学的なアプローチが進んできたことにある。野球は攻撃も守備もプレーが多岐にわたり、またグラブ、バットと用いる道具も多いため、練習時間が長くなることが多い。ただ、それを言い訳にして無駄が多くなっているのは確かだ。

 ところが近年はトレーニング面でも技術面でも進歩が目覚ましく、無駄を省いた練習でいかに効率よくパフォーマンスを上げられるかが重要になっている。前述した部訓にもこう書かれている。

『理論武装をせよ。君達は将来の指導者だ。子供たちに正しい事を教えるために、ルール、技術論、フォーメーション、勝負哲学、体の構造、医学知識、栄養学、運動力学を知れ。慶應義塾は「身・技・体・学・伝」』

 そのような意識を全員が徹底することで、チーム全体の力が上がりやすくなっていると推察される。また、そもそも他人から強制されてやるよりも、個人が主体性を持って取り組む方がスポーツでも勉強でもスキル、知識が定着しやすいというのも明らかになっており、その点も上手く作用していると言えるだろう。
 
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