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MLB

選手、フロント、オーナーが一丸となって手にした初の頂点――実は健全なレンジャーズの「カネで買った優勝」<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2023.11.02

2度目のワールドシリーズMVPに輝いたシーガー。低迷中だったレンジャーズを世界一にまで導いた(C)Getty Images

2度目のワールドシリーズMVPに輝いたシーガー。低迷中だったレンジャーズを世界一にまで導いた(C)Getty Images

 意外なチーム同士の対決となった2023年のワールドシリーズは、レンジャーズが4勝1敗でダイヤモンドバックスを下し、球団創設63年目で初の頂点に立った。

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 今回のレンジャーズのワールドチャンピオンを「カネで買った優勝」と表現するのは決して的外れではないだろう。

 シリーズMVPに輝いたコリー・シーガーも、ダメ押しの一発を放ったマーカス・セミエンも、先発して6回無失点の好投を見せたネイサン・イオバルディも、すべてFAで補強した選手だ。

 さらに、ポストシーズンを通じて安定した投球を披露したジョーダン・モンゴメリー、セットアップを担ったアロルディス・チャップマン、第3戦に先発したマックス・シャーザーはシーズン途中のトレードで補強した選手たちだ。

 もちろん、生え抜きのエバン・カーターやジョシュ・ヤング、加入当時は無名の存在だったアドリス・ガルシア、ジョナ・ハイムらの存在も見逃せない。だが、2年前に100敗したチームが一気に頂点まで駆け上がるという異例の躍進は、大補強なしにはあり得なかった。
 地道な努力の代わりに札束に物を言わせる、というイメージがあるためか、一般に「カネで買った優勝」はあまりポジティブに受け止められない印象がある。だが、ルールで認められたフリー・エージェントという制度を活用してチームを強化することに後ろめたさを覚える必要はどこにもないはずだ。

 近年のメジャーリーグは「スマートなチーム作り」がある種のトレンドとなってきた。費用対効果が悪い大型FA補強からはあえて背を向け、育成や「賢い」トレード、人材発掘を重視するチームが成功を収めてきた。レイズ、アストロズ、ブレーブス、ドジャースといったプレーオフの常連はいずれもそのカテゴリーに入るチームと言っていいだろう。

 同時に、「スマートなチーム作り」を隠れ蓑に、頂点を勝ち取るための本気のコミットメントを避けるような風潮も見受けられる。
 今回のレンジャーズのワールドチャンピオンは、そうしたトレンドを一変させることはなくとも、少なくとも一石を投じることにはなるかもしれない。

 21年オフ、レンジャーズがたった2日の間に総額5億ドルを投じてセミエンとシーガーを獲得した時、誰もが耳を疑った。何せ当時のレンジャーズは5年連続負け越し中。それこそ、近年のトレンドに倣うならば今後数年は勝敗度外視で再建に勤しむはずだった。そんな中での大型補強は「無謀」以外の何物でもなかった。

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