侍ジャパン

合宿初日から想定していたタイブレークでの古賀の送りバント。アジアCS優勝をもたらした井端監督の入念な準備<SLUGGER>

氏原英明

2023.11.20

初陣で見事優勝を飾った井端監督。結果もさることながら、随所で好采配が目立ったの印象的だった。写真:THE DIGEST写真部

 シチュエーションとしては、"あの試合"と同じだった。

 1点ビハインドで迎えた最後の攻撃。無死一、二塁のチャンスでバッターボックスには村上宗隆。あの劇的な試合と同じ場面が今大会のクライマックスだった。

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『カーネクスト アジアプロ野球チャンピオンシップ2023』決勝が19日に行われ、侍ジャパンがタイブレークとなった延長10回に逆転サヨナラ勝ち。2大会連続の優勝を飾った。

「ホッとしました。選手の頑張りで勝つことができたんで、選手に感謝しています。大会を通じて国際試合の難しさを経験できたところでは成長できたと思います。これをレギュラーシーズンや、来年はプレミアもありますので、一人でも多くの選手が侍ジャパンに入ってくれることを期待しています」

 サヨナラでの連覇達成に、侍ジャパンの井端弘和監督は喜びもひとしおだったが、選手たちへのメッセージも忘れなかった。

 この日の勝利につながったシーンに、井端監督の指揮官としての色が出ていたことを忘れてはいけない

 タイブレークに入った10回裏、1点ビハインドで窮地を迎えたが、そのシチュエーションはまさにWBC準決勝のメキシコ戦を再現するかのようだった。自動的に得たチャンスとはいえ、無死一、二塁での攻め方に井端監督の野球観が滲み出ていた。
 無死一、二塁から攻撃がスタート。打席は3番・森下翔太(阪神)という場面で、井端監督は代打に古賀悠斗(西武)を送った。送りバントをさせるためだった。古賀が1球で決めると、4番の牧秀吾(DeNA)は申告敬遠の後、5番・坂倉将吾(広島)の犠飛で同点。6番の万波中正(日本ハム)はまたも申告敬遠で歩かされると、7番の門脇誠(巨人)が三遊間を破るタイムリーを放ち、試合を決めたのだった。

 ここでは、強攻策で劇的勝利を収めたメキシコ戦と今回の試合のどちらが正しかったかという議論ではなく、井端監督の野球眼に着目したい。

 この場面で、なぜ、井端監督はWBCの栗山英樹監督のように、そのまま森下を打席に立たせて強行策に出なかったのだろうか。

「タイブレークじゃなかったら、森下にそのまま打たせていたかなと思います。(無死一、二塁のチャンスが)流れの中ではなかったので、その違いがあります。タイブレークになった時は1点差なら送りバントをしよう。2点差なら森下選手に打たせようと考えていました。それは今大会に入る前に決めていたことでした」

 決して森下を信頼していないわけではなかった。もともと想定していた試合展開で、最初から決めていた。それをブレずに実行したのだ。あらゆる状況を想定して準備を進めていたからできたことに他ならない。ここが井端監督の手腕だ。