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「A型なんで本来は何事にも細かいんですけど…」MLB史上最高の好スタートを切った今永昇太の“細心にして大胆”な適応能力<SLUGGER>

ナガオ勝司

2024.05.22

デビュー9試合で防御率0.84の快投を見せている今永。周囲の熱狂をよそに、本人はいたって落ち着いている。(C)Getty Images

 カブスの本拠地リグリー・フィールドの今永昇太のロッカーは、隣接地の地下にある円形のクラブハウスの片隅にある。投手陣が顔を揃える一辺にあり、伝統的に左端からエース格や実績のある投手が並んでいくのが慣例となっていて、かつては2016年のワールドシリーズ優勝に貢献した左腕ジョン・レスターや、サイ・ヤング賞投手ジェイク・アリエタ、あるいはダルビッシュ有投手(現パドレス)らのロッカーが並んでいた。

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 今は昨季デビューの左腕ジョーダン・ウィックスや4月途中にメジャー昇格したベン・ブラウン、救援で活躍していたアドベルト・アルモンテ(現在、負傷者リスト入り中)らと軒を並べており、ある意味、「新人扱い」である(著者注:なぜか右隣にだけベテランのカイル・ヘンドリクスがいるのだけれど)。

「まあ、日本ではともかく、ここでは新人なんで」と今永は笑う。

 ただし、新人だからこそ、メジャー最初の9先発で防御率0.84という成績が「1913年に防御率が野球の記録として登場して以来の最高記録である」などと、取り上げられたりする。

「あまりピンとこないと言いますか、ホント、そういう記録があったんですねという感じです」

 これまでの記録は1981年、救援から先発に転向したフェルナンド・バレンズエラ(当時ドジャース)の防御率0.91だった。バレンズエラはその年、25試合に先発して13勝7敗、防御率2.48という好成績で、最終的には新人王とサイ・ヤング賞を同時獲得している(当時の野球界を反映して、完投は実に11試合もあった!)。

 そんなこともあって、今永の活躍の要因については、すでに日米いろんな人々が、いろんな媒体で言及している。それらに共通しているのは、「ホップ成分が高い=バックスピンが効いた4シーム・ファストボール(速球)を高めに投げ、空振りを奪ったり、ファウルでカウントを稼ぐ。そして、左腕投手としては珍しいスプリット((著者注:本人いわく「チェンジアップ」)が、とても効果的に打者を攻略している」ということだろう。
 高めへの真っすぐと低めへのスプリットが目立つからだろう。過日、ネット界隈で「左の上原(浩治)じゃん」などと書かれているのを目にしたが、「四球が少なく、三振が多い」という部分は確かに似ていなくもない。

 メジャーで9年間も活躍して436試合中、先発12試合、救援424試合を投げた投手と、メジャー1年目で9先発しかしていない投手を比べるのは、どちらにとっても公平ではないだろうが、上原の通算奪三振率(K/9)10.71、同与四球率(BB/9)1.46、三振と四球の比率(K/BB)7.33を、今永の9.09、1.04、8.75と比べてみると、それぞれの特徴は少し似ているかも知れない。

 上原はかつて、ストライクゾーンについて「9分割ではなく、4分割」と話していたことがある。確かに現役時代の彼が内、外角のコーナーにビシビシと決めていたかと言えば、そうではなかったような気がする。真ん中付近に投げようが、逆球になろうが、バッターが呆気なく見逃したり、空振りやファウルにしてしまったり。それは今永も同じで、たとえば右バッターの懐近くに捕手のミットがあったとしても、そこにビシビシと決まるわけではない。両者に共通しているのは、見ていて気持ちいいぐらいの思い切りの良さで、結果的に相手がアウトの山を積み重ねることだ。

 今永はストライクゾーンをどう捉えているのだろう?

「それを言うなら、今の僕は上下2分割ですね」と彼は言う。
 
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「アメリカのピッチャーが作り出す捻転差と、日本のピッチャーの捻転差って違うんです」