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プロ野球

【なぜ日本野球はバントを“乱用”するのか?:第2回】「監督の保身」と「球団のノウハウ蓄積不足」スポーツ評論家・玉木正之が考えるバント依存の背景<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2024.12.20

バントの神様こと川相昌弘が活躍したのは90年代に入ってから。そう考えると日本プロ野球で送りバントが盛んに行われるようになったのは、実は意外と新しいのでは……? 写真:産経新聞社

バントの神様こと川相昌弘が活躍したのは90年代に入ってから。そう考えると日本プロ野球で送りバントが盛んに行われるようになったのは、実は意外と新しいのでは……? 写真:産経新聞社

 セイバーメトリクスの普及により、今やファンの間では「バントは非効率な戦法である」という考えが広く知られつつある。にもかかわらず、なぜプロ野球の現場ではいまだにバントが多用され続けているのだろうか? 舌鋒鋭く球界の問題に切り込み続けてきたスポーツ評論家・玉木正之氏が、NPBのバント信仰の”起源”について語ってくれた。

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 まず前置きしておきたいのは、実は日本のバント批判は大正時代からあるということです。明治時代の終わり頃から、早稲田大、慶応大、明治大などが盛んにアメリカ遠征をして、そこからバントの概念が輸入されました。また、ほぼ同時期の1915年に全国中等学校優勝野球大会(夏の甲子園の前身)が始まり、トーナメントで何とか勝ちたいとバントが多用されるようになった。当時の日本人は非力でしたから、ヒットがなかなか打てず、出塁した走者を何とか進塁させて本塁に近づけ、とにかく点を取りたいという思いが強かったんですね。

 このような経緯から、1925年に当時の慶応大監督だった三宅大輔(編集部注:34年にベーブ・ルースらが来日した日米野球で日本代表の監督を務めた人物。36~37年は阪急、44年には中日の前身である産業軍の監督も務めた)が、「必要以上にバントが乱用されている」とすでに言っているんです。文脈は違いますが、バントばかりの野球が面白くないと感じる人は当時からいたわけです。
 
 ただ、この当時の精神性が、今もバントが多用されている原因につながっているとは必ずしも限りません。一般的には「ドジャースの戦法」を取り入れた65~73年のV9巨人が起源という説が有力になっていますが、当時の巨人は一番多い年(66年)でもバントは1シーズン100個で、今の水準からすれば多いとは言えない。ましてや一番少ない年(70年)は65個でしかない。ほぼ2試合に1回しかバントしていないんですよ。だから、「V9起源説」も必ずしも正しくないわけです。

 むしろ私は、NPBのバントブームの発端は85年の阪神だと思っています。この年のタイガースと言えば、バース、掛布雅之、岡田彰布を中心に当時のセ・リーグ記録となる219本塁打を放ちながらも、141犠打は12球団最多。非力と言われていた日本人が本塁打を打てるようになってもいまだにバントを多用する精神性は、この阪神が始まりのような気がしてならないんですよね。

 では、もう40年近くも前の精神性をいまだに引きずっているのはどうしてかというと、これはもう「監督の保身」が第一でしょう。「自分としては点を取る作戦を目指しているけど、選手が打てないからバントのサインを出さざるを得ない」――そういう論法ですよ。
 
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