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プロ野球

沖縄発NPB行き――田尾安志が明かした琉球ブルーオーシャンズの存在意義

岩国誠

2020.01.29

打撃コーチも務める田尾は、「選手が成長できるところをNPBを始め、野球界に見せていきたい」と語る。写真:岩国誠

打撃コーチも務める田尾は、「選手が成長できるところをNPBを始め、野球界に見せていきたい」と語る。写真:岩国誠

 球団拡張(エクスパンション)時のNPB参入を掲げて旗揚げし、今年から始動した「琉球ブルーオーシャンズ」が、25日からキャンプをスタートさせた。

 キャンプ初日の気温は26℃。地元民でも異例の暑さという中、精力的に若い選手たちへの指導を行っていたのがユニフォーム姿の田尾安志氏。キャンプイン前日の24日、GMからシニアディレクター兼打撃総合コーチへの役職変更が発表されていた。

「肩書きはなんでもいいんですが、このチームにとっては僕が選手たちに指導できる方がプラスになると考えました。GMという立場ではなかなかそういうわけにはいかないので、球団にお願いしました」

 自ら望んでの打撃コーチ就任。これには、GMとして球団立ち上げに奔走している中で芽生えた思いが、一つの要因となっていた。

「NPB参入については、現時点では認められているわけではないですが、球団立ち上げで各球団へ挨拶に行かせてもらったときに、2月29日に試合を行う巨人を始め、協力に前向きな姿勢を見せてくれました。その中で『琉球ブルーオーシャンズという球団ができてよかった』と、どうしたら感じてもらえるのか」

 NPB参入を見据えてはいるが、現時点でのチームの存在意義を考えた時、真っ先に思い描いたのが、NPBで通用する人材を育成することだった。田尾コーチに限らず、球団として総意だった。明確なビジョンもある。

「プロ野球で戦力外になってしまった選手や、ドラフト候補に名前が上がりながらもNPBに届かなかった選手たちには、正しい技術を身につけられずに能力を発揮できずにいる選手たちがほとんどです。そういう選手たちに正しい技術を身につけてもらいたい」

 わずか1年で終わってしまった楽天監督時代には、のちに39歳で本塁打王を獲得するなど復活を遂げた山崎武司氏や、近鉄時代は打率2割に満たなかった高須洋介氏に打撃指導を行い、再生のきっかけを与えていた。

「高須は楽天1年目で、打率.278まで上がりました。確かな技術を身につけることで、打率は上がります。(トライアウト組も含めて)このチームにはそういう選手が何人かいる。そんな彼らがこのオフ何人かNPB入りをしてくれれば、このチームの存在価値が生まれる。ここ琉球ブルーオーシャンズでは、選手が成長できるところをNPBを始め、野球界に見せていきたい」
 
 技術指導と同様に、大切になってくるのが体作り。その重要な役割を担うのが、日本ハムと中日で述べ22年間、NPBの選手たちをつぶさに見てきた勝崎耕世コンディショニングトレーニングコーチだ。落合博満監督時代の中日を、森繁和氏、石嶺和彦氏とともに最後まで支え続け、落合氏からもその能力を評価されていた人物である。

「この1年は、プロで1年間戦える体力作りも行いますが、習得した技術を繰り返し再現できるベース作りをやっていきたい。その段階を抜けてくる選手が出てくるので、個々に合わせて段階を上げていきたいと思っています」

 習得した技術を継続できる再現性を持ち合わせていなければ、結果は残せない。琉球では、経験豊富な勝崎コーチがしっかりと各選手の下地作りを行い、さらには、体の使い方についても指導していくのだという。

「各コーチから技術を教えてもらっても、体をどう使うのか。どの部分を使っているのかがわかっていないと、教えてもらった技術の再現できないんです。どうしてそういう動きになるのかを気づかせると大きく変わっていきます。今は各コーチは(タブレットなどで)動画を撮影しそれを見せて指導しますが、僕は選手たちがその動きをするにはどこから始動したらいいとか、そういう部分を感覚的に掴めるように教えていきます」

 キャンプインからまだ間もないが、実際に指導を受けた日隈モンテル投手(OBC高島)は「軸足の使い方や腕の振りなど(投球時の)連動する動きが全くできていなかった。プロのトレーニングで(動きが)違うことを実感できました」と、手応えを感じていた様子だ。

「見ていてワクワクするんだよね」

 田尾コーチも勝崎コーチも同じ言葉をつぶやいたが、その瞳はまるで子供のようにキラキラと輝いていた。

 沖縄発NPB行き――。

 未開の航海へ出航したばかりの新球団はこの先、大嵐にさらされることもあるだろう。しかし、明日のNPB入りを目指す若い才能たちの姿と、持てる知識と経験を注ぎ込む指導者たちの思いは、それを越えてくれるはずだ。球界に新たな風を吹き込むことを期待せずにはいられない。

取材・文●岩国誠(フリーライター)

【著者プロフィール】
いわくに・まこと/1973年生まれ。プロ野球のニュース番組制作に携わるTV映像ディレクター。一時は球団公式SNS用動画制作やパ・リーグTVでの制作・配信を担当。その縁からフリーライターとして、webメディアでのプロ野球記事の執筆を始める。また、舞台俳優としての経験を生かして、野球イベントなどの運営や進行役など、幅広い活動を行っている。

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