ブルワーズの右腕ローガン・ヘンダーソンは今年４月20日にメジャーデビューを果たしたばかりの23歳。５月24日、敵地パイレーツ戦のためにクラブハウスに赴いた彼は思わず仰天した。次のような内容の手紙がロッカーに置かれていたからだ。

「ローガン・ヘンダーソン殿

　貴殿が５月20日のオリオールズ戦に遅刻したため試合開始が２分遅れたことに対し、5000ドルの罰金を申し付けます。

　コミッショナー事務局より」

　手紙に書かれている通り、確かに20日のオリオールズ戦はヘンダーソンのせいでプレーボールが遅れた。球場入りに遅刻したわけではないが、ヘンダーソンが試合前の準備やルーティンに時間をかけるタイプだったこと、マイナーよりもはるかに広いMLBの球場内で迷子になってしまったことなどの事情が重なって、18時40分の予定だったプレーボールが、ほんの少し後ろ倒しになってしまったのだ。

「遅れたことは分かってる。でも、5000ドルはちょっと高いんじゃないかな...」

　ルーキーのヘンダーソンの懐事情（メジャー最低年俸の76万ドル）からして、日本円にして70万円以上の罰金はかなり痛手だった。翌日に先発を控えていたヘンダーソンだが、思わぬ通告にショックを受け、チームメイトやコーチにどうしたらいいか聞いて回った...この手紙が、実はイタズラだったとも知らずに。
  　相談を受けたクリス・フック投手コーチは「もう少し余裕を持って準備をするように」と言い渡した上で、コミッショナー宛に手紙を出して処分の軽減を求めてはどうかと“アドバイス”した。もちろんヘンダーソンは「今日の夜、試合が終わったら手紙を書きます」と本気で受け止めた。

　さすがに先発を翌日に控えた状況でそんなことをさせるわけにはいかないと、フック投手コーチがネタバラシ。安心した（？）ヘンダーソンは、25日の試合で６回途中５安打１失点６奪三振の好投で勝利に貢献。メジャー最初の４先発でいずれも６三振以上を奪い、２失点以下に抑えた史上２人目の投手となった（1900年以降）。

　その翌日にヘンダーソンはマイナーへ降格となったが、これは故障から復帰する投手のためロースター枠を開けるための措置。「彼は頭脳明晰投手だし、向上心も旺盛だ。本当に優秀だよ」とフック投手コーチはヘンダーソンを称賛する。

　約１ヵ月間のメジャーでの生活を「チームの歓迎ぶりは本当に素晴らしかった」と振り返ったヘンダーソン。「僕もルーキーが昇格してきたら、あんな風に温かく歓迎してあげられたらいいな」。フック投手コーチも、“愛弟子”の再昇格を心待ちにしているに違いない。

構成●SLUGGER編集部

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