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プロ野球

【玉木正之のベースボール今昔物語:第16回】『ドカベン』も『野球狂の詩』も『スポーツマン金太郎』も読んでいたけれど…『巨人の星』だけは好きになれなかった理由<SLUGGER>

玉木正之

2025.08.05

――私が『巨人の星』を好きになれないのは、父親や姉との人間ドラマや根性物語が多すぎることです。それにアメリカ人選手の描かれ方が、まるで悪者の毛むくじゃらの赤鬼というのはヒドイですよね。

 打者の構えたバットに投球をぶつける「大リーグボール」なども現実離れしています。『スポーツマン金太郎』では、練習で金太郎がフライを打ち上げると巨人の川上(哲治)監督が「高めの投球を打ち上げちゃイカン」などと言う。すると長嶋(茂雄)や王(貞治)が「でも、あそこまで飛ばせば悪くないでしょう」と言って笑う。そういう野球のプレイに即した話が好きでしたね――。

 もちろん、水島先生の漫画も人間の面白さと同時に野球の面白さが存分に描かれているので好きです……と、ゴマを擦ることも忘れなかった(笑)。

 が、私が大失敗したのは、水島先生と2時間以上も楽しくいろんな話ができたのに、サインや色紙をねだるのを忘れたことだった。そのことを今でも後悔している。だが今、この原稿を書いている時に「ねだる」という言葉を漢字で書くと「強請る」となることに気付き、悔しさとともに、「強請ら」なくてよかったな……とも思った。

 さて、私が『巨人の星』を嫌っているもう一つの理由――というか、首を傾げる理由を書いておこう。
 
『巨人の星』の漫画やテレビ・アニメが公開されて人気を博した当時、“ミスター・ジャイアンツ”と呼ばれた長嶋は、どう見ても主人公の星飛雄馬ではなく、漫画でタイガースの選手として登場したライバルの花形満に似ていた。

 そして星飛雄馬は、涙を流しながら必死の形相でマウンドに立った“ミスター・タイガース”村山実にそっくり!

 そこで改めて巨人随一のスター選手(つまりは巨人の星だ)の系譜を書き並べてみると、沢村栄治→川上→長嶋茂雄(王貞治)→江川卓→桑田真澄→岡本和真(?)……で、どう見ても長嶋だけが、根性論を離れている。

 一方、“阪神の星”の系譜は、点差が開くと守備のやる気をなくした豪放磊落の景浦将から、長嶋も憧れた物干し竿バットの強打者・藤村富実雄を経て、村山実→田淵幸一→掛布雅之→佐藤輝明……と、根性派の村山実投手だけが異質だ。

 長嶋と村山の両選手の入る球団が入れ替わっていれば、プロ野球のドラマはもっと『巨人の星』の漫画のように盛り上がったかもしれない……?

文●玉木正之

【著者プロフィール】 たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。
 

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