そして、先述したように先頭の谷がヒットで出塁、鳴門が反撃に打って出そうな雰囲気が漂っていた。
1死後に打席に入った橋本の回想が重要度を際立たせる。
「次のバッターが左打者だった。マウンドは末吉くんだったので、左打者につなぐだけでは難しいと思った。自分が打って何とかしようと思った」
ここで末吉の制球は定まらず、ボール3となったのだった。
比嘉監督の回想。「僕は先のことを考えていました。四球になってどういう守り方をするのか、ベンチの選手たちに伝えていました」
好投手の攻略に、配球を上手く読み取るという方法がある。相手がどの球種を投げ込んでくるか。データであったり、経験であったり、試合展開などからの読みなど根拠はさまざまだが、もう一つカギを握るのがカウントだ。投手有利なのか、打者有利なのか。その中でどのカウントを狙うのかかも勝負を隔てる要素の一つだ。
橋本は3ボールになった時点でチャンスが来ると思っていたという。。長打を狙ってフルスウィングするつもりでいた。
ところが......。末吉の指から放たれたボールは引っ掛け気味になり、インコースへの厳しい球になった。これを橋本は打ち上げてしまったのだった。 「カウント3ボールの時はいつも見るんですけど、末吉くんは左バッターには打ちにくいと思うんで、自分がなるべく進めないといけない。インコースに引っかかった真っすぐだと思うんですけど、真っすぐがきたら打とうと思っていました。それで力んで打ち損じてしまいました」
伝令の準備をしていた比嘉監督は鈍い音を聞いて安堵したと、こう話す。
「四球を覚悟していたので良かったなと。この試合においてはすごく大きな1球でした」
鳴門の後続が倒れて無得点に終わると、9回表は逆に沖縄尚学が攻撃に出る。2点を追加して試合を決めたのだった。
好ゲームにおいては、必ずと言っていいほどキーポイントになる場面が訪れる。1点ビハインドの8回、チームの中心でもある橋本の打席はまさにそのキーポイントで、それを本人自身も自覚して臨んだからこそ、3ボールでも打とうと思ったわけである。
「いい形を作れていたが、一本が出なかった。悔しい」
指揮官はそう言って唇を噛んだ。金星にまで後一歩迫った。鳴門にとっては何とも悔しい敗戦だった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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ここで末吉の制球は定まらず、ボール3となったのだった。
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好投手の攻略に、配球を上手く読み取るという方法がある。相手がどの球種を投げ込んでくるか。データであったり、経験であったり、試合展開などからの読みなど根拠はさまざまだが、もう一つカギを握るのがカウントだ。投手有利なのか、打者有利なのか。その中でどのカウントを狙うのかかも勝負を隔てる要素の一つだ。
橋本は3ボールになった時点でチャンスが来ると思っていたという。。長打を狙ってフルスウィングするつもりでいた。
ところが......。末吉の指から放たれたボールは引っ掛け気味になり、インコースへの厳しい球になった。これを橋本は打ち上げてしまったのだった。 「カウント3ボールの時はいつも見るんですけど、末吉くんは左バッターには打ちにくいと思うんで、自分がなるべく進めないといけない。インコースに引っかかった真っすぐだと思うんですけど、真っすぐがきたら打とうと思っていました。それで力んで打ち損じてしまいました」
伝令の準備をしていた比嘉監督は鈍い音を聞いて安堵したと、こう話す。
「四球を覚悟していたので良かったなと。この試合においてはすごく大きな1球でした」
鳴門の後続が倒れて無得点に終わると、9回表は逆に沖縄尚学が攻撃に出る。2点を追加して試合を決めたのだった。
好ゲームにおいては、必ずと言っていいほどキーポイントになる場面が訪れる。1点ビハインドの8回、チームの中心でもある橋本の打席はまさにそのキーポイントで、それを本人自身も自覚して臨んだからこそ、3ボールでも打とうと思ったわけである。
「いい形を作れていたが、一本が出なかった。悔しい」
指揮官はそう言って唇を噛んだ。金星にまで後一歩迫った。鳴門にとっては何とも悔しい敗戦だった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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