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MLB

スカウトはもういらない?各球団が「データ至上主義」に突き進むMLBのドラフト事情

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2020.06.09

スカウトがバックネット裏でスピードガンをかかげる光景も、もはや過去のものになるかもしれない。(C)Getty Images

スカウトがバックネット裏でスピードガンをかかげる光景も、もはや過去のものになるかもしれない。(C)Getty Images

 今年3月上旬、MLBは新型コロナウイルス感染拡大を受けて球場でのスカウティング活動を禁止したが、上位指名が予想される選手についてはすでに情報が蓄積されているので、大きな影響はないと見られている。クボタは言う。「『ラプソード』や『トラックマン』から、不足しているドラフト候補の情報を埋めることができるんだ。実際、試合を見ているスカウトから得られる情報は少なくなっている」

 今やスカウトの重要任務には、詳細なデータがまだ上がっていない無名選手やダイヤの原石の映像撮影が含まれるという。18年には球界全体で約60人のスカウトが職を追われ、さらに今年も、ロサンゼルス・エンジェルスがドラフト直前に17人のスカウトに一時離職を通達した。「ドラフト指名に成功するための十分な情報と人材は確保している」との球団のコメントは、スカウトの置かれた苦境、現実を如実に物語っている。

 選手自身が自らの“発信”で球団に売り込めるようになったことも、スカウトをさらに窮地に追いやっている。最近、日本でも話題を呼んだ大学生左腕ルーク・リトルがいい例だ。大学の試合が自粛になっていた間、リトルは自らトレーニング施設で最新機器を用いた投球練習を公開。非公式とはいえ、世界最速タイの105マイル(約169キロ)を計時して一躍、時の人となった。

 他にも、多くのドラフト候補が各種テクノロジー機器を活用して、自らのデータをSNS上でアピールしている。現在進行形で選手自身が事実上、スカウティング・レポートを書いてくれているようなものだから、球団からしたらありがたいことこの上ない。
 
 しかし、そこには落とし穴もある。『ラプソード』などで 得られるデータはあくまで現時点のものにすぎず、3年後、5年後の姿まではもちろん分からない。また、選手の自己申告によるデータをどこまで信用できるのかという問題もある。そもそも、1回だけ飛び抜けた数値が出ただけ、ということも考えられる。

 いわゆる「メイクアップ」と呼ばれる精神的な強さ、勤勉さ、闘争心、リーダーシップも数値では測れない。資質は素晴らしくとも、メイクアップが不十分だったために大成できなかった選手は数多くいる。逆に、才能の不足分を努力やガッツ、才覚で補う選手も少なくない。スカウトたちは繰り返し選手を観察し、対話を繰り返す中でメイクアップについても判断を下している。だが、多くのスカウトが職を失っている現状は、そうした“目利き”が求められなくなっていることの証と言えるだろう。

 クボタは語る。「確かに昔に比べたらスカウトに頼ることは減ってきている。しかし、こうしたデータが『実戦』で反映できているかどうかは、ちゃんと精査しなければいけない。今のスカウトには、数字を基にしながら選手たちがその能力を発揮できるかをチェックすることが求められている」。

 今年のドラフトは、新型コロナウイルス拡大の影響もあり、例年40巡目まで行われていた指名が5巡目までに縮小される。プロ入りの門戸は、人数にして約1200人から150人まで狭められることになった。

 それだけに、各球団はいつも以上に知恵を絞らなければならない。ある意味で、「データ至上主義」がどこまで有効なのかが試されるドラフト、と言っても過言ではないだろう。

文●新井裕貴(SLUGGER編集部)

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