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MLB

【2020MLB注目のスターたち】マイク・トラウト&ムーキー・ベッツ――走攻守すべてを備えた「至高にして究極」の2人

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2020.07.19

 ベッツがすごいのは、あれだけ小柄で線が細いにもかかわらず、打席でも並み居る大男たちに負けないパワーを発揮している点だ。その源泉は、ずば抜けたスウィングスピードとリストの強さにある。ベッツが内角球を鋭いスウィングで一閃し、フェンウェイ・パークのグリーンモンスターを超える一発を放つシーンは、ボストンのファンにとってはおなじみの光景だった。

 2人は〝6つめのツール〞、すなわち性格面も申し分ない。トラウトは最も熱心にファンへのサインを書く選手としても知られている。ベッツも礼儀正しい好青年で、先日は自宅近くのスーパーマーケットで買い物客全員の代金を肩代わりしたばかりか、店員には食べ物を差し入れして話題になった。どちらも、球界を代表するスーパースターになった後も地に足の着いた姿勢を崩すことはない。

 惜しむらくは、2人ともテレビ映え、動画映えする派手なパフォーマンスをしたがらないことだろうか。そのせいか、圧倒的な実力を持ち、プレー自体も魅力的であるにもかかわらず、全米レベルのスーパースターという地位にはまだ至っていない。

 考えてみれば2人は、NBAやNFLの選手がよくするような、これ見よがしのドヤ顔を決めていい場面が他のどのメジャーリーガーより多くあるはずなのに、いつもクールに装っている。まるで「これくらい普通っしょ」とでも言うように。もしかしたら、それが彼らなりの自己主張なのかもしれない。
 
 そもそも、2人がベースボールを選んでくれたこと自体を、私たちは喜ぶべきかもしれない。ベッツはバスケットボールでは悠々とダンクを決め、ボウリングの腕もプロ級。トラウトは今年のスプリング・トレーニング中、ゴルフの打ちっぱなしでとんでもない当たりを飛ばす動画がSNSで話題沸騰となった。

 本来、トラウトとベッツは、テレビよりも実際に球場に足を運んでこそ、その真価が見えてくる選手だ。打って走って守る。ボールではなく、彼らの一挙手一投足だけをずっと見ていても入場料を払う価値がある。

『ジ・アスレティック』の記者リーヴィ・ウィーバーはこう言っている。「トラウトのすべてが、よく晴れた夏の日にボールバークで過ごす時の感触を思い出させる。彼のプレーを見ることは、あの素朴な感触の象徴なんだ」

 20年シーズンが無観客での開催になったことで、しばらくは球場でトラウトやベッツのプレーを楽しむことはできない。それでも、テレビやインターネットの画面を通じてでも、ベースボールの〝至高〞と〝究極〞を体現する2人のプレーを改めて堪能したい。どこのチームのファンかを問わず、MLBを愛する者すべてがそう思っているはずだ。

文●久保田市郎(SLUGGER編集部)

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