田澤は2019年にシンシナティ・レッズとマイナー契約を結び、今年3月、契約解除された。新型コロナウイルスの感染拡大が広がるアメリカでは今季のマイナーリーグが中止となり、田澤はプレー機会を求めて日本に帰国した。
そうしてBCリーグの武蔵と契約したが、その先にNPB入りを見据えているのか。また、田澤を獲得したいNPB球団はあるのだろうか。両者の思惑が合致した時、障壁を乗り越える道筋が浮かび上がってくる。
田澤がこれまでメディアで発言してきた内容を振り返ると、プロのキャリアを始めたアメリカで野球人生を終えるつもりだったように感じられる。それが今年、誰も予期せぬパンデミックが発生し、日本に帰国した。現役選手としてプレーできる環境が、BCリーグにあったからだ。
自らの右腕でキャリアを切り開き、MLBやマイナーで通算11年間プレーして34歳になった今、独立リーグでどんな投球を披露するのか。ファンやメディアだけでなく、NPBのスカウトも熱視線を向けるはずだ。BCリーグの舞台で快投を見せた場合、獲得したいと考えるNPB球団が現れる可能性もあるだろう。もしかしたら、田澤自身の胸にも、NPBでプレーしたいという気持ちが強くなるかもしれない。
そうなった時、NPBの球団間で話し合い、『田澤ルール』を見直せばいい。あと2年間待たずとも、希望する球団は今年のドラフト会議で指名できるように申し合わせる。新型コロナウイルスの収束はなかなか見通せず、来季以降の新外国人選手の獲得に影響が出る可能性もある中、田澤のように経験豊富なベテランを欲しい球団もあるはずだ。だからこそ、以上のように道筋をつければ、多くの人がハッピーな未来に向かうことができる。
球界全体のためにも、選手会の森事務局長は理不尽なルールの変更を求めている。「こんな制限があるのは野球だけですよね。バスケットボールでは八村塁選手がNBAに行ったけど、同様の制限があるわけではありません。野球界の裾野を広げていくためにも、海外で活躍できる可能性を持たせておいたほうが、子供たちにとって夢が広がりますよね」
12年前、大志を抱いた青年の行動に恐怖心を覚え、NPBは人権を妨げるようなルールを設けた。プロ野球という“村社会”には、これ以外にもさまざまな掟が存在する。例えば保留制度や、FA制度で選手に権利の行使を「宣言」させる仕組み、さらにドラフト会議も“プロ野球村”の掟に則って行われているものだ。
ただし『田澤ルール』はあくまで口約束にすぎず、“村人”たちの合意があれば、簡単に変えられるはずである。どうすれば、その道筋をよりスムーズにつけることができるか。12年前にできた理不尽なルールに決着をつけられるのは、現状、田澤自身において他ならない。
まずは独立リーグで好投を見せることが、『田澤ルール』の解決への第一歩となる。
取材・文●中島大輔
【著者プロフィール】
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。
そうしてBCリーグの武蔵と契約したが、その先にNPB入りを見据えているのか。また、田澤を獲得したいNPB球団はあるのだろうか。両者の思惑が合致した時、障壁を乗り越える道筋が浮かび上がってくる。
田澤がこれまでメディアで発言してきた内容を振り返ると、プロのキャリアを始めたアメリカで野球人生を終えるつもりだったように感じられる。それが今年、誰も予期せぬパンデミックが発生し、日本に帰国した。現役選手としてプレーできる環境が、BCリーグにあったからだ。
自らの右腕でキャリアを切り開き、MLBやマイナーで通算11年間プレーして34歳になった今、独立リーグでどんな投球を披露するのか。ファンやメディアだけでなく、NPBのスカウトも熱視線を向けるはずだ。BCリーグの舞台で快投を見せた場合、獲得したいと考えるNPB球団が現れる可能性もあるだろう。もしかしたら、田澤自身の胸にも、NPBでプレーしたいという気持ちが強くなるかもしれない。
そうなった時、NPBの球団間で話し合い、『田澤ルール』を見直せばいい。あと2年間待たずとも、希望する球団は今年のドラフト会議で指名できるように申し合わせる。新型コロナウイルスの収束はなかなか見通せず、来季以降の新外国人選手の獲得に影響が出る可能性もある中、田澤のように経験豊富なベテランを欲しい球団もあるはずだ。だからこそ、以上のように道筋をつければ、多くの人がハッピーな未来に向かうことができる。
球界全体のためにも、選手会の森事務局長は理不尽なルールの変更を求めている。「こんな制限があるのは野球だけですよね。バスケットボールでは八村塁選手がNBAに行ったけど、同様の制限があるわけではありません。野球界の裾野を広げていくためにも、海外で活躍できる可能性を持たせておいたほうが、子供たちにとって夢が広がりますよね」
12年前、大志を抱いた青年の行動に恐怖心を覚え、NPBは人権を妨げるようなルールを設けた。プロ野球という“村社会”には、これ以外にもさまざまな掟が存在する。例えば保留制度や、FA制度で選手に権利の行使を「宣言」させる仕組み、さらにドラフト会議も“プロ野球村”の掟に則って行われているものだ。
ただし『田澤ルール』はあくまで口約束にすぎず、“村人”たちの合意があれば、簡単に変えられるはずである。どうすれば、その道筋をよりスムーズにつけることができるか。12年前にできた理不尽なルールに決着をつけられるのは、現状、田澤自身において他ならない。
まずは独立リーグで好投を見せることが、『田澤ルール』の解決への第一歩となる。
取材・文●中島大輔
【著者プロフィール】
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。