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MLB

【追悼ホワイティ・フォード】「銀行頭取のよう」と言われたヤンキースの名左腕にも、実は裏の顔があった?

豊浦彰太郞

2020.10.15

 彼は、指輪の表面の一部をキザギザに加工してボールを引っ掻いたり、ベルトのバックルで傷を付けたりした。その行為が怪しまれると、今度は捕手のエルストン・ハワードが返球前にスパイクの泥を落とすふりをして、金具で傷をつけた。これにより表面の空気抵抗が増したボールは予測できない変化をする。このことは、元ヤンキースの投手ジム・バウトンが70年に出版した暴露本『ボール・フォア』でも紹介されている。ハワードは「フォードの速球はグンと伸び上がり、また沈み込む。スライダーは大きく反対方向へ変化する」と語っているが、このような鋭い変化は不正投球によるものだったのかもしれない。だが、フォードは現役時代に一度も摘発されたことはなかった。審判を欺く抜け目のなさは、確かにエリートビジネスマンらしいと言えるかもしれない。
 
 フォード自身も87年に、『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューで、「(高給を手に入れることが可能な)現代の選手が、ボールに細工しても無理からぬことだ」と答えている。フォードは腕の故障が深刻化したため67年に38歳で現役を引退したが、「もし自分のサラリーが80万ドルだったら、もっと現役に固執した」とも述べている。彼の最高到達年俸は7万6000ドルだった。
 
 また、前述の『ボール・フォア』には、こんなエピソードも紹介されている。フォードと当時のMLBを代表するスターのマントルが遠征先で、ある若手選手を高級レストランでのディナーに誘った。スター2人に招待された若手はすっかり舞い上がって、指定された場所へ正装してタクシーで向かった。ところが、到着してみると、そこにあるのは崩れた壁と割れた窓ガラスの廃屋だけで、高級レストランなんて影も形もなかったという。銀行マンのようだと言われたフォードにも、まるでいたずらっ子のような面があったのだ。この多彩な顔こそが、彼をスターたらしめた魅力なのかもしれない。

文●豊浦彰太郎

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