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MLB

なぜ田中はクオリファイング・オファーを受けられなかったのか? QOをめぐる球団、そして選手たちのさまざまな思惑

宇根夏樹

2020.11.27

 逆に、田中の投球の“質”は、近年明らかに低下しつつある。16年以降はFIPがずっと4点台を推移。しかも、来季でもう33歳になる。成績が劇的に改善する可能性は、実は低いのだ。ここまで書けばもう分かるだろう。田中にQOの申し出がなかったのは、ヤンキースが「田中に1890万ドルも払うのは高すぎる」と判断したからだ。MLBの移籍情報サイト『MLBトレード・ルーマーズ』も、田中の予想契約額を3年3900万ドル(約40億5000万円)と見積もっている。つまり、1年あたり1300万ドル(約13億5000万円)が、現在の田中の“適正価格”なのだ。

 一方、ストローマンとゴーズマンには、QOを拒否し、FA市場でより好条件の契約を目指す選択肢もあった。事実、今オフはバウアーを含む4人がQOを拒否している。だが、2人は最終的に残留を決断した。これはコロナ禍によって各球団の補強予算が大幅に減り、思い通りの条件が得られない恐れがあるためだ。それなら、今回はQOを受け入れて来季改めて実力を証明し、再びFAになって好条件を手にした方が得策と考えたのだろう。
 
 同様の決断をした選手に、2018年オフのリュ・ヒョンジンがいる。この年、故障によって15先発しかできなかったリュは、ドジャースが申し出た1790万ドルのQOを受け入れた。そして、19年に防御率のタイトルを獲得し、オフにブルージェイズから4年8000万ドル(約87億2000万円)の大型契約を得た。一度QOの申し出を受けた選手には、2度とQOが出されることはないので、獲得側もドラフト指名権を差し出す必要がなくなる。その分、獲得のハードルも下がる。

“QO物件”ではないことのメリットは、今オフの田中も同じだ。もしヤンキース以外の球団と契約する場合でも、契約のハードルは下がる。ストローマンとゴーズマンが市場から消えたことで先発投手の選択肢が減り、相対的に田中の価値も上昇しており、うまくいけば予想以上の好条件を獲得できる可能性も出てきた。

 QOのシステムはやや複雑なためか、日本ではその詳細についてあまり知られていない。だが、その複雑さゆえに、このように選手と球団の間でさまざまな思惑や駆け引きが交わされる、興味深いシステムでもあるのだ。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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